《さあ始まりました、選抜リレー!先頭を走るのは白組!ーー》
大きな大歓声に包まれて、俺は脱力する。あぁ、めんどくせえ。
なんで俺が走らなきゃなんねえんだ。
ーーあれから1ヶ月後。
今日は、俺の学校ーー清輝高校体育祭だった。
鬱陶しいほどに俺たちを照りつける太陽をひと睨みしてから、数週間前のことを思い出す。
◆ ◇ ◆
「次、選抜リレーなんだけどー、誰か出たい人いますかー?」
ざわざわと騒がしい教室内で、俺は頬杖をついて窓の外を眺めていた。
窓際の席は楽だ。そして、ラッキーだ。
なぜならーー。
「あ……」
この教室の窓際からしか見ることができないグラウンド。そこに、真柴がいた。
体育の授業なのだろう、体操服姿の真柴を見るのは初めてで、真っ白な生地から除く意外と筋肉質な腕に、不覚にもドキンとしてしまった。
やべえ、こんなの俺……。
顔をゆでだこのように真っ赤にした俺の頭の中で、よく妹に読まされる小学生向け恋愛漫画の中で、恋をする女の子のときめいた顔が脳裏によぎる。
全く同じ状況じゃねえかよ……。
力の抜けた俺は、机に額をゴンッと打ち付ける。それが予想以上に痛くて。
「いってぇ!」
そんな大声を出してしまった。案の定、その声は教室で騒ぐやつらの誰よりも大きくて。
「あ、千羽くんやってくれる?」
クラスの委員長なのだろうか、メガネをかけたひとつ結びの女子が、首を傾げた。
「え、あ、いや。やんねえーー……」
「千羽、オマエ足速いって聞いたぞ!いいじゃん、体育でも飛び抜けてただろ!」
「たしか、千羽だけ50m走6秒前半だったよな?」
「いいじゃん、千羽頼むよ!」
その頃、誤解を解こうと必死になってくれた高杉のおかげもあって、すっかりクラスの男子達と打ち解けていた俺は、周りからの推薦で、当然のように枠に名前を書かれていた。
打ち解けられたのはよかったのだが……。
めんどくせえことになったな……。
「魁くん、がんば!」
ニコニコしながらガッツポーズをしてくる高杉を横目に、どうやって体育祭をバックれようと考えながらグラウンドにいる真柴を眺めていたらーー
「っ、!」
不意に、真柴と目があって、俺は勢いよく顔を背けた。そして、体育祭をバックれる方法を考えることをやめた。
◆ ◇ ◆