「……悪かったな」


掴んでいた滝真紘のワイシャツの袖をパッと離して、顔を背ける。


「……すみませんでした」


明らかに「僕は不満です」と言いたげな表情で、俺から離れる滝真紘は、まるでご主人様の敵を威嚇する忠犬のようだった。



「……つか、大丈夫か」



そして俺は、さっきからずっと気になっていたことを口にした。


「まだしんどいか」


ベッドの隣にある丸椅子に座って真柴の顔を見ると、昼休みの時よりかはずいぶんマシな顔色をしていた。

あぁ、よかった。酷いことにならなくて。

本当、心配させやがって。


緊張の糸が解けたように、一気に身体から力が抜ける。



「千羽」


「……」


無言でいることが俺の返事、そう真柴はわかっているのだろうか。

真柴の口元が緩んだ気がした。


「さんきゅーな」


いつもみたく、真柴の大きな手が伸びてくる。昼休みの時、保健室に運ぼうとした俺を拒んだ手ではなく。

まるで習慣化しているように、俺の頭を撫でる手だった。



「っ……」



だが、俺は今、とんでもなくおかしい。

真柴に対する感情なんて考えたこともなかった俺が、保健室の先生に言われて初めて疑問を抱き出したのだ。


『真柴が好きかも(?)』なんて、そんな考えが頭の中の大部分を埋め尽くしている今、真柴に触れられたら……。



「かっ、帰る」


「え、なんーー……」


「大事にしろよっ」



きっと俺の今の顔は、あの時と同じようにとんでもなくマヌケな顔をしているのだろう。

それを見られたくなくて、逃げるように保健室を出た。



心臓がうるさいくらいに波打つ。まずい、こんなの、本当に俺が真柴を好きみたいじゃねえか。

『かも(?)」が消えるだけで、こんなにも動揺するのか、俺は。



俺は、近くにあったトイレに駆け込んで、壁をつたってずるずるとしゃがみ込んだ。



俺は……。



ーー真柴のことが、好きなのか……?



廊下のスピーカーから、6限の開始を知らせるチャイムが鳴り響いた。