「二人とも、静かにーー……」



「テメェは真柴のなんなんだよ?あぁ?」

「後輩のくせに呼び捨てにするなダサヤンキー!」

「黙れチビ!」

「なんだとぉっ!」



真柴が起きた時にはすでに、俺とこのチビは揉み合いになっていた。

大体、本当に誰なんだ、こいつは。

異様に真柴を慕っているし、俺に対する敵意も剥き出しだ。最初に「誰だオマエ?真柴先輩に近づくなよ」なんて喧嘩をふっかけてきたのは、コイツなんだから。

売られたケンカなんて買う以外にありえねえ。



「さっさと授業戻れよ!休み時間終わるっつーの!」


「授業より真柴先輩の方が大切に決まってるだろうが!」


「はあ……!?」



まじかよコイツ、と言いたくなるのを必死に喉の奥で堪える。
よりによってコイツ、真柴信者かよ……っ。

頭の片隅にあった『好きかも(?)』なんて気持ちを自分から追い出したくて「ああもう!」と叫ぶ。


そして、俺にへばりついてくるチビのワイシャツの襟足を掴んで、誰もいないベッドに放り投げた。


「まじでなんなんだ、オマエ……!」


息切れをしながら、ベッドの上で丸まったそいつを睨みつける。

どうやらコイツは一年らしい、上履きに入っているラインの色が赤色だった。


「俺は、真柴先輩に仕える生徒会書記、1年1組の滝真紘だ!」


いや、そういうことじゃないんだよ。それを聞きたいんじゃないんだよ。

きっとこいつには何を言っても通じない、そう悟った俺は、何も言わずにため息をついて、ガシガシと後頭部を掻いた。



「そういうオマエは誰なんだよ、明らかに校則違反の頭髪をしやがって」



そういうところは生徒会役員なんだな、なんてことをぼんやりと思いながら、チビに向かって鼻を鳴らした。


「教える必要ねーだろ、バーカ」


「なっ、なんだとぉぉぉっ」


また俺の言葉がそいつの何かを刺激したのか、滝真紘と名乗ったやつは、再び俺に飛びかかろうとした。

その瞬間ーー。


「真紘」


ーーぴたりと、保健室内の時が止まったかのように静かな空間となった。


やはり、それは真柴の声で。そこで初めて、俺は真柴が起きていたことに気づいた。


「千羽も」


ぎくりと肩が揺れる。やべえ、怒られる……。

真柴の顔を見なくたってわかる、有無を言わせぬオーラが彼から溢れ出ているのだから。