「『好き』って、なんだっけ」
俺は、すぅすぅと寝息を立てて眠る真柴の顔を見つめながら、そう呟いた。
先生の言った『好き』の意味って、恋愛としての意味だよな。
キスとか、ハグとか。そういうことしたいって、そう思うような相手の……。
「っ、あぁぁぁ……」
そんなことを考えている内に、俺はたまらなく恥ずかしくなって、頭をブンブンと振り回した。
俺、真柴で何を考えて……っ。
顔に集中した熱を振り払うように椅子から立ち上がって、水道で顔をバシャバシャと洗う。
今までで恋なんてもの、したことがない俺にとっては、この気持ちがなんなのか全くわからない。
真柴と目が合うと、なぜか恥ずかしくて、すぐに目を逸らしたくなってしまうのも。
真柴の声が俺を呼ぶたびにテンションが上がってしまうのも。
真柴から触れられると、心臓が痛くなるのも。
その理由がなんなのか、俺にはまだわからない。
「はあ……」
考えるのに疲れた俺は、ずぶ濡れの顔をハンドタオルで適当に拭いて、ため息をついた。
ーーその時だった。
「真柴せんぱーーーいっ」
保健室の扉が、焦ったような声とともに勢いよく開いたのは。
……誰だ?コイツ。
扉が開いた先に立っていたのは、少し小柄な男子生徒だった。