昼休み。


モヤモヤした気持ちのまま時間は流れ、あれから1日がたった。

まあ、機嫌が悪い時なんて誰にでもあるか。

深く考えすぎないようにしねえと。



誰もいない屋上のコンクリートでできた地面に胡座をかいて座ると、朝、コンビニで買ってきた菓子パンの包装を破いた。

そういえば、学校で昼飯を食うことなんて、今までに一度もなかったな。


真柴と出会って、友達ができてから、俺の中で新しいことばかりを経験している。

不思議だな。

たった1人や2人との出会いで、人生の何もかもが変わることもあんだな。


他校のチンピラとは何十人も出会ってきたけど、なんら変わることなんてなかった。


「……うま」


飯も、初めて味わったり、自分の手で選んで買ったり。

1ヶ月前の俺じゃ、想像もつかなかったんだろうな。


なんてことを考えていると、ふいに、屋上の扉が開く音がした。

反射的に振り返る。

嘘だろ、屋上に繋がる階段の前に、『柵が壊れているため侵入禁止』って注意書きがあったはずなのに。

誰も入ってこないと思って選んだ場所なのに。



ーーでも、次の瞬間ドアから現れた人物の姿を見て、心臓がギュッと握られたような感覚に陥った。



「……真柴」


「千羽、ここは侵入禁止だぞ。……っつー俺も、入ってるけどな」



ため息混じりに笑う真柴は、俺の隣に座ると、後ろに手をついて空を見上げた。

あれ、今日は機嫌悪くない……?いや、そりゃそうか。昨日は忙しくて疲れていただけなんだろう。

俺も邪魔しすぎたし。



「昼飯ねえの?」



ふと、真柴が手ぶらなのが気になって、なんとなく質問してみる。

真柴は、「あぁ」と今気づいたかのような声を漏らした。


「それより眠たいんだよな、俺」

「はあ?」


昼飯のことを聞いたんだけど……と、眉根を寄せる俺を気にも留めずに、真柴は俺の膝を指差した。


「枕、欲しいんだけど」


「…………………は!?」


枕が欲しい、だからなんだ。そんなことを考えるよりも先に、俺はもう一つの解釈をしてしまった。


「膝枕して」

「は?おま、なに……言って……」


きっと、俺の今の顔はゆでだこのように真っ赤なのだろう。そりゃあそうだ、急にそんなことを言われたらそうなるに決まってるじゃないか。


「いいから、昼休み、あと20分しかねーんだよ」


真柴が、俺の膝の上で……。

半強制的に膝枕をさせられた俺は、もはや何も考えられなくなっていた。


「昼休み終わったら起こして」

「お、おう……」


俺の手から、食べかけの菓子パンがポロリと地面に転げ落ちた。