ーーーーーーーーーー
「その後の1限は体育だったんだけどよーー……」
「まあ、おまえがこれから楽しい学校生活送れそうで何よりだ」
放課後。
今日あったことを永遠と喋り続ける俺の頭を、真柴がわしゃわしゃと撫でる。
「で、君は誰かな」
「千羽魁くんと同じクラスの高杉司です!」
「はあ……」
真柴は、俺と高杉を交互に見やると、呆れたようにため息をついた。
「あのな、たしかにいつでも来ていいとは言ったけど……」
「わかってるし!初めてできた友達オマエに見せてやろうと思っただけだし!」
「そう」
真柴は、タイヤ付きの椅子に座ると、さっきまでやっていた作業に戻ってしまった。
「真柴さん、カッコいいよね」
「はっ?そ……そうか?」
まずい、今のはさすがに不自然だった。実はめちゃくちゃカッケェと思ってるなんて知られたくなって、とっさに意地を張ったけど。
「ふーん?」
ニヤニヤと笑みを浮かべる高杉の頭を軽くはたく。
「つーかオマエ、部活よかったのかよ」
そう、高杉はバスケットボール部に所属していて、来年のエースだと言われてるくらいらしい。
そんなやつが、今日は部活を休んでまで生徒会室へ来ていた。
「そりゃあ、"初めてできた友達"なんて言われたら。ねえ?」
「なっ……」
なんなんだよ、こいつ。さっきから俺の反応を見て一人で楽しそうにしやがって。
肩をこづいてくる高杉の肘を振り払いながら、チラリと真柴の様子を盗み見ると、こちらを見る気配など全く感じられない。
むしろ、作業が大変そうだ。
生徒会長だもんな。邪魔しちゃ、悪かったか……?ここ数日、授業の時間以外は生徒会室に篭りっぱなしらしい。
「真柴……ぁ」
ヤベェ!そう思った時にはもう遅く、俺の口からは、彼を呼ぶ声が漏れ出ていた。
「なに」
まずい、まずいまずい。口の中で呟いたはずだったのに。
まさか声にまで出ていたなんて……!
顔に登った血が沸騰しそうなくらいに熱い。
ほんと、何やってんだ。俺……!
「きょ、今日もいい天気だな……っ」
「……曇りだったけどな」
「……」
「ぶっ」
何も発する言葉がない俺の横で、高杉が吹き出す。
「おまっ、何笑ってんだよ……!」
「ははっ、ちょ、魁くん面白すぎ……っ」
笑いの収まらない高杉に飛びかかる。
恥ずかしいところで笑いやがって……!
「千羽」
「な、なんだよ」
ふいに、真柴の声が俺を呼んだ。見れば、真柴は別に俺を見てはいなかった。
資料に目を落としながら、口を開く。
「今日は久々に教室行って疲れてんだろ、もう遅いんだから帰れ」
時刻は18時。
別に遅くはないけど……つーか、真柴なんか機嫌悪くないか?
「俺も仕事終わらせたいんだ」
髪をかきあげてそう言った真柴の表情は、なんだか疲れているような、少し機嫌が悪いような、そんな気がした。
「……おう」
俺は、短く返事をするとそばに置いてあったバッグを手に持つ。
「帰るぞ」
「そうだねー」
部屋を出る時にだって、アイツは俺に目もくれなかったーー。