一応俺が在籍している2年8組の教室内は、ドアの外からでもわかるほどザワザワしていた。きっと自習か何かなのだろう。

よかった、少しでも入りやすい雰囲気で。

でも、休み時間の方が良かったな、とスマホを開いて時間を確認すれば、あと数分で休み時間がくる頃合いだった。

ラッキー、休み時間になって自然に入ればいい。

そう思って、ドアの横の壁に背中を預けようとした時だった。


「あぁ、千羽?」


「っ、」


俺のことが話題に上がったことで、肩がぴくりと反応した。

あぁもう、なんでこのタイミングなんだよ。


「アイツ、いつになったら来んのかな。そろそろ留年確定じゃねえ?」

「はは、確かに。ていうか、もう来なくていい」

「まじで一緒のクラスとか人生ミスってるわー」


全部全部、聞こえてるっつーの。

どうやら、教室のドアに近い席のヤツらが話しているらしくて、一言一句鮮明に俺の耳に届いていた。


「つか、もし来たとしてもアイツに居場所ねえし、すぐ来なくなるんじゃねえの」


「…………」


そんなタイミングで、授業終了を知らせるチャイムが、鳴り響いた。俺には、その瞬間が永遠にも感じられて。


ーーあぁ、そうか。


生徒会室、真柴、高杉、友達。


誰だって、ただの知り合いで、俺と一緒にいれるような人間じゃない。


俺とアイツらは、違う。


「でさー、この前他校の友達が千羽におっかけまわされたって言っててーー……っ、あ……」


俺の目の前のドアが開く。それと同時に、俺の噂話をしている途中のヤツらが、トイレにでも行くのか、廊下に出るためにドアを開けた瞬間、突っ立っていた俺を見て固まる。そして極めつけには、クラスが静まり返る。


怯えた表情で教室の中に引っ込んでいくヤツには意識も向かず。


俺は、今にも重力に負けてしまいそうなくらい肩にのしかかる暗い感情に支配されたかのように何も考えられなくなって、教室に背を向けていた。


この数日間、少し浮かれていた自分がバカバカしい。恥ずかしい。気持ち悪い。



こんな俺に、最初から居場所なんてもんはなかったんだーー。