「真柴亜月……」
俺は、この学校の生徒会長、そう、アイツのフルネームをボソボソと呟きながら、あの部屋の前に立った。
ーー真柴亜月さんっていうんだよ。俺たちの学校の、生徒会長さん。
高杉にそう教えてもらってから、1週間以上が立っている。
それから、真柴には会っていなくて、会いに行ってもない。
断じて会うのが少し恥ずかしいからとか、そういうのじゃない。
今までにも何度かこの部屋の前に来たのだが、なかなかに勇気が出なくて、今日まで引っ張ってきたのだ。
重要なことだから2回言うが、断じてこの前図星を突かれてダサいところを見られたから、会うのが恥ずかしいということではない。
「……よし」
意を決した俺は、短く息を吐いて、真柴と俺が初めて出会った場所ーー生徒会室のドアに手をかけた。
「……あ?」
ーー開かない。
俺は、ドアをスライドさせる腕に力を入れて再び挑戦した。
しかし、ドアはガタガタと音を立てるだけで、開いてはくれない。
どうやら生徒会室には今、誰もいないらしい。
「んだよ……」
せっかくここまで来て、勇気振り絞ったっていうのに。
俺は、長いため息をつきながらズルズルとその場にしゃがみ込む。そんな俺の片手には、あの日、真柴が俺に貸してくれた折り畳み傘。
ちゃんとお礼言って、そこから……って、シミュレーションまでしてきたというのに。
仕方ない。また明日にするか……。なんて、最近の俺は、生徒会室の前で立ち往生した後はそのまま家に帰っていた……のだが。
俺は、少し先にある中央階段に目をやった。
あの階段を登った先の教室に入れば、高杉がいる。……友達の。
俺が行けば、きっと高杉は笑顔で迎えてくれるだろう。
……でも、他の奴らはどうだ?
俺のことを見て、どう思う?
階段を登りかけていた足が、まるで鉛がついたかのようにずっしりと重くなって、俺の歩を止めた。
「……あーもう」
何余計なこと考えてんだ、俺は。
入るったら入るんだ。
怖がることなんて何にもないんだから。
俺は邪念を払い飛ばすかのように頭を軽く振ると、再び階段を登り出した。