桜輔と冷たい廊下で話をしてから、部屋に戻った桃輔はそわそわと落ち着かないでいる。
瀬名とはもう話すこともできないと考えていたが。それでは駄目なのかもしれない。だが、騙していたヤツのことなんか忘れたいのではないか。桜輔と付き合ってはいないとしても、これから告白を考えている可能性だってある。でも――桜輔との会話を思い出すほど、ちゃんと話すべきだと思えてくる。
「瀬名……」
久しぶりに、猫のぬいぐるみを抱きよせる。それから、体育祭以来引き出しに仕舞っていた猫のストラップを取り出し、瀬名と撮った数枚の写真を眺める。何度もスクロールして、拡大してはそっと画面を撫でて。メッセージアプリの瀬名とのやり取り欄には、溜まったままの未読を表す数字と、最後は不在着信で終わっている表示。意を決して開いてみようかと思ったが、やはりまだ勇気は出ない。
ああ、だけど。瀬名に会いたい。今頃なにをしているのだろう、ちゃんとあたたかくしているのか。いつまでも見せてくれない飼い猫と戯れているか、それとも誰かと遊んでいるだろうか。
瀬名に会いたい、ものすごく。だけど、いやだからこそ。なによりもまず、楽曲制作をきちんとやり遂げなければ。瀬名のところへ行くなら、それからだ。
スマートフォンを傍らに置き、ギターを手に取る。
「ふう。やるか」
この曲は歌詞もメロディも、全てが瀬名への想いだから。
朝起きてすぐ、登校中の電車の中。休み時間、授業中も先生の目を盗み、帰宅後はもちろん部屋に籠って。費やせる限りの時間を使いようやく曲が完成したのは、二学期の終業式を翌日に控えた朝だった。徹夜ももう何度目だっただろう。いい加減睡眠をとらなければ、と考えはしたが。居ても立ってもいられず、ギターを片手にそのままカラオケ店へと急いだ。何度も何度も弾いて、唄って。声は少し掠れてしまう時もあったけれど。納得のいく録画ができた瞬間、静まり返った部屋には震えた息が響いた。
「あー、はは。ほんとにできた……」
天井を仰いで、ソファに寝転がる。いつもならすぐインスタに投稿するところだが、ギターを抱いたまま少し眠った。
瀬名とはもう話すこともできないと考えていたが。それでは駄目なのかもしれない。だが、騙していたヤツのことなんか忘れたいのではないか。桜輔と付き合ってはいないとしても、これから告白を考えている可能性だってある。でも――桜輔との会話を思い出すほど、ちゃんと話すべきだと思えてくる。
「瀬名……」
久しぶりに、猫のぬいぐるみを抱きよせる。それから、体育祭以来引き出しに仕舞っていた猫のストラップを取り出し、瀬名と撮った数枚の写真を眺める。何度もスクロールして、拡大してはそっと画面を撫でて。メッセージアプリの瀬名とのやり取り欄には、溜まったままの未読を表す数字と、最後は不在着信で終わっている表示。意を決して開いてみようかと思ったが、やはりまだ勇気は出ない。
ああ、だけど。瀬名に会いたい。今頃なにをしているのだろう、ちゃんとあたたかくしているのか。いつまでも見せてくれない飼い猫と戯れているか、それとも誰かと遊んでいるだろうか。
瀬名に会いたい、ものすごく。だけど、いやだからこそ。なによりもまず、楽曲制作をきちんとやり遂げなければ。瀬名のところへ行くなら、それからだ。
スマートフォンを傍らに置き、ギターを手に取る。
「ふう。やるか」
この曲は歌詞もメロディも、全てが瀬名への想いだから。
朝起きてすぐ、登校中の電車の中。休み時間、授業中も先生の目を盗み、帰宅後はもちろん部屋に籠って。費やせる限りの時間を使いようやく曲が完成したのは、二学期の終業式を翌日に控えた朝だった。徹夜ももう何度目だっただろう。いい加減睡眠をとらなければ、と考えはしたが。居ても立ってもいられず、ギターを片手にそのままカラオケ店へと急いだ。何度も何度も弾いて、唄って。声は少し掠れてしまう時もあったけれど。納得のいく録画ができた瞬間、静まり返った部屋には震えた息が響いた。
「あー、はは。ほんとにできた……」
天井を仰いで、ソファに寝転がる。いつもならすぐインスタに投稿するところだが、ギターを抱いたまま少し眠った。