夏休みになって、バイトのシフトを増やした。親からは進学を勧められているが、大学生になってまで学びたいものは見つけられないでいる。将来の夢だとか就きたい職業だとか、未来のビジョンなんてない。勉強に身が入るはずもなかった。
その代わり、というわけではないが、この夏はますます音楽にのめりこむ毎日だ。
七月に探していた次に弾き語る曲は、やはり片想いの心情を唄うものにした。女性シンガーソングライターの一曲。暇さえあればギターの練習をして、休みに入ってすぐにカラオケボックスで撮影。
インスタにさっそく投稿すると、今回もアンミツとcherryから即反応があった。cherryからはいつものように短めの、けれど絶賛のコメントがついた。アンミツからはコメントの他にDMも来て、新鮮な選曲のおかげでmomoさんの新しい一面が見られた、と興奮した様子が文章からも伝わってきた。夏休み中は普段よりコンスタントにアップしたいと返信すれば、ほんの数秒で<最高です!>とまたレスポンスがあってさすがに笑ってしまった。
それから。桃輔の夏休みの日々に色濃く存在するのは、なんと言っても瀬名だった。メッセージのやり取りは毎日、事あるごとに「いつ遊ぶ?」と聞いてくる。これは一度会うだけでは済みそうにないなと笑った夜には、思いつきで電話をかけてみた。あの時の瀬名の驚きようを思い出すと、今もつい笑ってしまう。喋りながらギターを触っていたら、それに気づいた瀬名が息を飲んだのが印象的だった。音楽の話はしてもギターのことは言っていなかったから、面喰ったのだろう。練習で爪弾く音に耳を傾けてもらえるのは、思いのほか嬉しいものだった。
そうして迎えた八月の頭。瀬名と遊ぶ約束をした日がやってきた。瀬名の提案で、近くのショッピングモールで映画を観る予定だ。選んだのは13時すぎに上映が始まるミステリーもので、待ち合わせは11時半にモール最寄りの駅。まずはランチ、というスケジュールだ。
友だちと遊んでくると母に声をかけ家を出る。すると、桜輔と玄関前で出くわしてしまった。部活から帰ったのだろうか。タイミングが悪い。
「モモ。どこか出かけるの?」
「うん」
「森本くんたち?」
「あー、うん、まあな」
「……ふうん、そっか」
「は? なんだよ」
桜輔にとっては単なる兄弟としての会話なのだろう。だが桃輔にとって、それはいつだってどこか煩わしい。特に瀬名に関することは、話題にするのだって避けたい。
「ううん、なんでも。いってらっしゃい」
「はあ……はいはい、いってきます」
「すごく暑いから熱中症にならないようにね!」
「あーもう! 分かってっから!」
家の敷地から出ても見送られているのが、振り返らなくたって分かる。兄弟というより、もはや親のような振る舞いだ。居心地が悪くて、早足になりながら舌をひとつ打った。
その代わり、というわけではないが、この夏はますます音楽にのめりこむ毎日だ。
七月に探していた次に弾き語る曲は、やはり片想いの心情を唄うものにした。女性シンガーソングライターの一曲。暇さえあればギターの練習をして、休みに入ってすぐにカラオケボックスで撮影。
インスタにさっそく投稿すると、今回もアンミツとcherryから即反応があった。cherryからはいつものように短めの、けれど絶賛のコメントがついた。アンミツからはコメントの他にDMも来て、新鮮な選曲のおかげでmomoさんの新しい一面が見られた、と興奮した様子が文章からも伝わってきた。夏休み中は普段よりコンスタントにアップしたいと返信すれば、ほんの数秒で<最高です!>とまたレスポンスがあってさすがに笑ってしまった。
それから。桃輔の夏休みの日々に色濃く存在するのは、なんと言っても瀬名だった。メッセージのやり取りは毎日、事あるごとに「いつ遊ぶ?」と聞いてくる。これは一度会うだけでは済みそうにないなと笑った夜には、思いつきで電話をかけてみた。あの時の瀬名の驚きようを思い出すと、今もつい笑ってしまう。喋りながらギターを触っていたら、それに気づいた瀬名が息を飲んだのが印象的だった。音楽の話はしてもギターのことは言っていなかったから、面喰ったのだろう。練習で爪弾く音に耳を傾けてもらえるのは、思いのほか嬉しいものだった。
そうして迎えた八月の頭。瀬名と遊ぶ約束をした日がやってきた。瀬名の提案で、近くのショッピングモールで映画を観る予定だ。選んだのは13時すぎに上映が始まるミステリーもので、待ち合わせは11時半にモール最寄りの駅。まずはランチ、というスケジュールだ。
友だちと遊んでくると母に声をかけ家を出る。すると、桜輔と玄関前で出くわしてしまった。部活から帰ったのだろうか。タイミングが悪い。
「モモ。どこか出かけるの?」
「うん」
「森本くんたち?」
「あー、うん、まあな」
「……ふうん、そっか」
「は? なんだよ」
桜輔にとっては単なる兄弟としての会話なのだろう。だが桃輔にとって、それはいつだってどこか煩わしい。特に瀬名に関することは、話題にするのだって避けたい。
「ううん、なんでも。いってらっしゃい」
「はあ……はいはい、いってきます」
「すごく暑いから熱中症にならないようにね!」
「あーもう! 分かってっから!」
家の敷地から出ても見送られているのが、振り返らなくたって分かる。兄弟というより、もはや親のような振る舞いだ。居心地が悪くて、早足になりながら舌をひとつ打った。