「先輩に会いたくてこの高校に入りました」
「……は?」
「昨年の学校説明会の時、一目惚れしたんです」
「あー……人違いだな」

 高校三年生になった初日、新たに入学してきた一年生に妙なことを言われた。そんなはずがないと一蹴した、確固たる自信をもって。
 だってそれは自分じゃない、そのはずがない。説明会なんて一切関わっていないからだ。
 だが考えられる可能性ならひとつある、俺の双子の兄のことを言っているのだろう。
 
 初めまして、はいさようなら。簡単に上手に、幕を引けたはずだったのに。
 
 劣等感から逃げられず、自分を誤魔化して過ごしていた日々がこの出逢いで一変するなんて――笹原(ささはら)桃輔(ももすけ)はこの時、少しも考えはしなかった。