夏帆が芽衣を覚えていた理由が、単なる懐かしさや友情ではなく、強烈なわだかまりによるものだった――それが今、湊の胸に重くのしかかっていた。夏帆が走り去った後、空はますます暗くなり、風が吹き始めた。重たい雲が空を覆い尽くし、遠くから聞こえる雷鳴は次第に近づいてくる。
「夏帆が私たちのこと、忘れなかったの、なんとなく分かる気がするよ」
それは芽衣も同じだったらしく、芽衣はぽつりと呟いた。
「ねえ、湊くん。ひょっとして私たち……」
「……行こうか」
湊は、芽衣の言葉をさえぎった。
肉体はここにあるのに、生きている確証が持てない。
『もし自分たちが……、みんなから忘れられていく存在だとしたら?』
そう思うと、湊は耐えがたい不安に襲われた。
『ああ、思い出した、あの感覚。確かに、俺は鈴城の手をつかんだ。でも、その後は? 俺たちは……、そのまま落下したのか?』
湊は、自分の両手をじっと見つめながら、さきほどよみがえった記憶のその先を想像していた。
どんなに考えても、その後がどうしても思い出せない。
『思い出す手段は、たった一つだとしたら……。鈴城。俺は、君に、触れるしかないのか──』
湊が芽衣に向かって一歩踏み出そうとした瞬間、突然激しい雨が降り出し、二人の体をずぶ濡れにした。
「やだ、こんなに降るなんて……!」
芽衣に触れようとした湊の手は空を切り、芽衣は雨の中を走り出した。
「行くなら、湊くんも、早く!」
バス停まであと少しの距離なのに、雨脚はさらに強くなり、視界がぼやけていく。
湊は唇を噛むと、鈴城の方に向かって走り出した。
「走っていこう。……鈴城の家でいいのか?」
「大丈夫。走れば、すぐそこだから」
『なにが大丈夫なんだよ、鈴城──……』
湊は小さくため息をつき、その後、二人は言葉も交わさず、ただ芽衣のマンションに向かって走り続けた。
マンションに着くと、二人はエントランスで乱れた呼吸を整えながら、ふとずぶ濡れのまま立ち尽くしていることに気づいた。雨水が二人の髪や制服を通って、ぽたぽたと床に滴り落ちている。
「……湊くん、上がって。濡れたままじゃ、風邪ひいちゃうよ」
芽衣はそう言って、湊をマンションの中へとうながした。
最初に湊をマンションに入れたときとは別の高揚感が胸の中に広がり、エレベーターのボタンを押す芽衣の指は、わずかに震えていた。
芽衣の震えに気づいた湊は、そっと腕を伸ばし、何も言わずに「7」のボタンを押した。
湊の腕が、至近距離まで伸びて、芽衣はどきっとして湊を見つめた。
湊もまた芽衣を見つめ、二人の間に静かな空気が漂っていた。
触れたい。でも、触れてはいけないような──そんな複雑な思いが二人の心を満たしていた。
湊が記憶の続きを気にしているように、芽衣もまたその続きが気になっていた。
エレベーターが7階に着き、二人で部屋に入ると、芽衣は湊にタオルを差し出したが、その手はまだ少し震えていた。
湊もまた、その震えに気づいたものの、何も言わなかった。お互いを見つめるだけで、何かが変わってしまうような気がしていた。
ふと、湊が芽衣をまっすぐに見た。
「……もう一度、確かめてみる?」
芽衣は一瞬戸惑ったような表情を浮かべ、ためらいがちに、それでも確かにうなずいた。
確かめることが何か──、芽衣にはもう分かっていた。
二人が一緒に記憶をよみがえらせるためには、触れ合うことが必要だ。
けれど、さっきのように無意識に触れ合うのではなく、今度は自分たちの意思で触れなければならない。
それが芽衣を一瞬戸惑わせたものの、芽衣はじっと湊を見つめた。
「触れて、湊くん」
湊は静かに芽衣の手の方へ自分の指先を伸ばし、そのままそっとからめようとした。雨で濡れた湊の指先から冷気が伝わってきて、芽衣の指先がぴくんと動いた。
『触れたい……。けど、ただ記憶を再生するためだけに触れるんじゃない。俺は――』
「湊くん、怖がらないで」
芽衣が優しくほほえみかけると、湊は戸惑いながらも、覚悟を決めた。
どんな結果が待っていようとも、今はこの瞬間を受け入れるしかなかった。
「……俺ももう、逃げないよ」
湊がそう言うと、芽衣も静かにうなずいた。そして二人の手がしっかりと触れ合う瞬間、再びあの記憶がよみがえってきた。
――五階の教室。窓に手をかけていた芽衣。クラスメートは、みんなそこにいたのに、キャーキャー騒ぐだけで、湊以外、誰一人として止めようとする人はいなかった。
「どうせパフォーマンスだろ? 飛んでみろよ」
中には浩平のようにはやし立てる声が、混じっている。
「ねえ、誰か先生、呼んできて!」
「ダメ、間に合わない!」
緊迫感あふれた教室で、浩平だけが芽衣に駆け寄り、飛び降りようとした芽衣の手をぐっと引き寄せた。
片足が宙に浮いていた芽衣は体を引っ張られて、バランスを崩し、ぐらっと体が落ちそうになった。
ちらっと下を見ると、地面が遠く広がっているのが見える。体が宙に浮いた瞬間、芽衣の心臓は凍りついた。
「鈴城、しっかりつかまれ!」
湊は息が詰まるほどの焦り、芽衣の手を強く引き寄せた。
『絶対に手を離さない』――その思いだけが湊の頭の中を駆け巡っていた。
一瞬、足元が崩れるような感覚に襲われたものの、湊は間一髪で芽衣を引き上げることができた。
二人はそのまま床に崩れ落ち、荒い息をつきながらも、何とか無事であることに安堵した──。
今、芽衣の脳裏には、あの瞬間の湊の必死な顔と、怖さで固まった自分の手の感触が鮮明に蘇っていた。
二人は同じ記憶を共有しながら、今、この瞬間に安堵した。
芽衣は生きていた。湊は彼女を救えた。それを思い出した今、二人の心は一瞬、言葉にできない感情で満たされた。
湊は、芽衣と指先をからませたまま、少し息を整えた。言葉にできない安堵が、胸の奥でじわじわと広がっていく。
「……鈴城、俺、ちゃんと守れたよな」
どこか自分に問いかけるような、その言葉には少し戸惑いが混じっていたものの、芽衣を見つめる湊の目は、もう迷いはなかった。
「でも……これからは、もっと俺も強くなるよ。今までみたいに、鈴城だけを不安にさせるようなことは、絶対にさせないから」
湊は少し強く芽衣の手を握りなおすと、まっすぐに芽衣の瞳を見つめた。
「だから、もう二度と……、あんなことしないでくれよ」
「湊くん……」
「……俺が、ずっとそばにいるから。絶対に、離さない」
芽衣の表情は柔らかく、湊は彼女を見つめると、思わずもう片方の手を伸ばした。芽衣の髪にそっと触れ、気づけば、そのまま芽衣に顔を近づけ、キスしようとしていた。
しかし――。
その瞬間、突然、窓の外で雷鳴が轟いた。湊はその音にハッとし、思わず体を引いた。心臓が激しく脈打ち、息が詰まるような感覚が胸を襲って、触れていた手をそっと離した。
重くなった空気に、湊がどう声をかけるかどうか迷っていると、芽衣の小さな声が、その沈黙を破った。
「……湊くん、続きは?」
それが、記憶の再生の続きを求めているのか、それともキスの続きなのか――湊には分からなかった。ただ、芽衣の瞳に映る自分の姿が、今までと違うものに感じられて、湊は息を呑んだ。
先ほどまで感じなかった痛みが、再び二人を襲っていた。
喉の奥が焼けるように痛くなってくる。
湊は喉元を押さえ、芽衣は苦しそうに眉間にしわを寄せた。
『やっぱり触れた後には、この痛みがくるのか……』
湊は苦しみに耐えながらも、心の中で呟いた。
『それでも、鈴城。俺は君に、もっと触れたいよ』
二人は、ずぶ濡れのまま、お互いの顔を見つめ合いながら、言葉にできない何かを共有していた。記憶の再生が終わった今、二人に残されたのは、もうただ一つの感情だけだった。
それは、温かく、やさしく、そして、かすかな恐怖すら包み込んでいた。
湊は芽衣にゆっくりと手を伸ばし、再び触れようとした。
けれど、まさにその瞬間、空に再び雷鳴が響き渡り、湊の手がふと止まった。
その音は、まるで記憶の再生を断ち切るかのようで、湊の中で何かが揺らいだ。
「その先を知ってはいけない」と、警告されたかのような感覚に、二人の間に漂っていた温かな空気が、一瞬冷たく変わった気がした。
「……今日は、ここまでにしようか」
湊は、かすかに震える声でそう告げると、芽衣に触れる寸前だった手をゆっくりと引き戻した。
芽衣も、湊の気持ちを感じ取ったのか、小さくうなずいて、ほほえみを浮かべた。
その優しい笑顔を見て、湊はほっとしたように息をつき、静かに手を下ろした。
「うん、そうだね……。ありがとう、湊くん」
そうして二人は、ずぶ濡れのまま、お互いに寄り添いながら、静かに眠りについた。窓の外では、まだ雨が降り続けていたが、その音はだんだんと遠く、そして心地よく感じられるようになった。
二人にとって、今はただ、一緒に眠りにつけることが何よりも大切だった。久しぶりの安堵が、心に広がっていく。
しかし、雷鳴が途切れたあの瞬間――まるで何か大切なものが切り離されたような感覚が、湊の胸の奥に、かすかに残っていた。
「夏帆が私たちのこと、忘れなかったの、なんとなく分かる気がするよ」
それは芽衣も同じだったらしく、芽衣はぽつりと呟いた。
「ねえ、湊くん。ひょっとして私たち……」
「……行こうか」
湊は、芽衣の言葉をさえぎった。
肉体はここにあるのに、生きている確証が持てない。
『もし自分たちが……、みんなから忘れられていく存在だとしたら?』
そう思うと、湊は耐えがたい不安に襲われた。
『ああ、思い出した、あの感覚。確かに、俺は鈴城の手をつかんだ。でも、その後は? 俺たちは……、そのまま落下したのか?』
湊は、自分の両手をじっと見つめながら、さきほどよみがえった記憶のその先を想像していた。
どんなに考えても、その後がどうしても思い出せない。
『思い出す手段は、たった一つだとしたら……。鈴城。俺は、君に、触れるしかないのか──』
湊が芽衣に向かって一歩踏み出そうとした瞬間、突然激しい雨が降り出し、二人の体をずぶ濡れにした。
「やだ、こんなに降るなんて……!」
芽衣に触れようとした湊の手は空を切り、芽衣は雨の中を走り出した。
「行くなら、湊くんも、早く!」
バス停まであと少しの距離なのに、雨脚はさらに強くなり、視界がぼやけていく。
湊は唇を噛むと、鈴城の方に向かって走り出した。
「走っていこう。……鈴城の家でいいのか?」
「大丈夫。走れば、すぐそこだから」
『なにが大丈夫なんだよ、鈴城──……』
湊は小さくため息をつき、その後、二人は言葉も交わさず、ただ芽衣のマンションに向かって走り続けた。
マンションに着くと、二人はエントランスで乱れた呼吸を整えながら、ふとずぶ濡れのまま立ち尽くしていることに気づいた。雨水が二人の髪や制服を通って、ぽたぽたと床に滴り落ちている。
「……湊くん、上がって。濡れたままじゃ、風邪ひいちゃうよ」
芽衣はそう言って、湊をマンションの中へとうながした。
最初に湊をマンションに入れたときとは別の高揚感が胸の中に広がり、エレベーターのボタンを押す芽衣の指は、わずかに震えていた。
芽衣の震えに気づいた湊は、そっと腕を伸ばし、何も言わずに「7」のボタンを押した。
湊の腕が、至近距離まで伸びて、芽衣はどきっとして湊を見つめた。
湊もまた芽衣を見つめ、二人の間に静かな空気が漂っていた。
触れたい。でも、触れてはいけないような──そんな複雑な思いが二人の心を満たしていた。
湊が記憶の続きを気にしているように、芽衣もまたその続きが気になっていた。
エレベーターが7階に着き、二人で部屋に入ると、芽衣は湊にタオルを差し出したが、その手はまだ少し震えていた。
湊もまた、その震えに気づいたものの、何も言わなかった。お互いを見つめるだけで、何かが変わってしまうような気がしていた。
ふと、湊が芽衣をまっすぐに見た。
「……もう一度、確かめてみる?」
芽衣は一瞬戸惑ったような表情を浮かべ、ためらいがちに、それでも確かにうなずいた。
確かめることが何か──、芽衣にはもう分かっていた。
二人が一緒に記憶をよみがえらせるためには、触れ合うことが必要だ。
けれど、さっきのように無意識に触れ合うのではなく、今度は自分たちの意思で触れなければならない。
それが芽衣を一瞬戸惑わせたものの、芽衣はじっと湊を見つめた。
「触れて、湊くん」
湊は静かに芽衣の手の方へ自分の指先を伸ばし、そのままそっとからめようとした。雨で濡れた湊の指先から冷気が伝わってきて、芽衣の指先がぴくんと動いた。
『触れたい……。けど、ただ記憶を再生するためだけに触れるんじゃない。俺は――』
「湊くん、怖がらないで」
芽衣が優しくほほえみかけると、湊は戸惑いながらも、覚悟を決めた。
どんな結果が待っていようとも、今はこの瞬間を受け入れるしかなかった。
「……俺ももう、逃げないよ」
湊がそう言うと、芽衣も静かにうなずいた。そして二人の手がしっかりと触れ合う瞬間、再びあの記憶がよみがえってきた。
――五階の教室。窓に手をかけていた芽衣。クラスメートは、みんなそこにいたのに、キャーキャー騒ぐだけで、湊以外、誰一人として止めようとする人はいなかった。
「どうせパフォーマンスだろ? 飛んでみろよ」
中には浩平のようにはやし立てる声が、混じっている。
「ねえ、誰か先生、呼んできて!」
「ダメ、間に合わない!」
緊迫感あふれた教室で、浩平だけが芽衣に駆け寄り、飛び降りようとした芽衣の手をぐっと引き寄せた。
片足が宙に浮いていた芽衣は体を引っ張られて、バランスを崩し、ぐらっと体が落ちそうになった。
ちらっと下を見ると、地面が遠く広がっているのが見える。体が宙に浮いた瞬間、芽衣の心臓は凍りついた。
「鈴城、しっかりつかまれ!」
湊は息が詰まるほどの焦り、芽衣の手を強く引き寄せた。
『絶対に手を離さない』――その思いだけが湊の頭の中を駆け巡っていた。
一瞬、足元が崩れるような感覚に襲われたものの、湊は間一髪で芽衣を引き上げることができた。
二人はそのまま床に崩れ落ち、荒い息をつきながらも、何とか無事であることに安堵した──。
今、芽衣の脳裏には、あの瞬間の湊の必死な顔と、怖さで固まった自分の手の感触が鮮明に蘇っていた。
二人は同じ記憶を共有しながら、今、この瞬間に安堵した。
芽衣は生きていた。湊は彼女を救えた。それを思い出した今、二人の心は一瞬、言葉にできない感情で満たされた。
湊は、芽衣と指先をからませたまま、少し息を整えた。言葉にできない安堵が、胸の奥でじわじわと広がっていく。
「……鈴城、俺、ちゃんと守れたよな」
どこか自分に問いかけるような、その言葉には少し戸惑いが混じっていたものの、芽衣を見つめる湊の目は、もう迷いはなかった。
「でも……これからは、もっと俺も強くなるよ。今までみたいに、鈴城だけを不安にさせるようなことは、絶対にさせないから」
湊は少し強く芽衣の手を握りなおすと、まっすぐに芽衣の瞳を見つめた。
「だから、もう二度と……、あんなことしないでくれよ」
「湊くん……」
「……俺が、ずっとそばにいるから。絶対に、離さない」
芽衣の表情は柔らかく、湊は彼女を見つめると、思わずもう片方の手を伸ばした。芽衣の髪にそっと触れ、気づけば、そのまま芽衣に顔を近づけ、キスしようとしていた。
しかし――。
その瞬間、突然、窓の外で雷鳴が轟いた。湊はその音にハッとし、思わず体を引いた。心臓が激しく脈打ち、息が詰まるような感覚が胸を襲って、触れていた手をそっと離した。
重くなった空気に、湊がどう声をかけるかどうか迷っていると、芽衣の小さな声が、その沈黙を破った。
「……湊くん、続きは?」
それが、記憶の再生の続きを求めているのか、それともキスの続きなのか――湊には分からなかった。ただ、芽衣の瞳に映る自分の姿が、今までと違うものに感じられて、湊は息を呑んだ。
先ほどまで感じなかった痛みが、再び二人を襲っていた。
喉の奥が焼けるように痛くなってくる。
湊は喉元を押さえ、芽衣は苦しそうに眉間にしわを寄せた。
『やっぱり触れた後には、この痛みがくるのか……』
湊は苦しみに耐えながらも、心の中で呟いた。
『それでも、鈴城。俺は君に、もっと触れたいよ』
二人は、ずぶ濡れのまま、お互いの顔を見つめ合いながら、言葉にできない何かを共有していた。記憶の再生が終わった今、二人に残されたのは、もうただ一つの感情だけだった。
それは、温かく、やさしく、そして、かすかな恐怖すら包み込んでいた。
湊は芽衣にゆっくりと手を伸ばし、再び触れようとした。
けれど、まさにその瞬間、空に再び雷鳴が響き渡り、湊の手がふと止まった。
その音は、まるで記憶の再生を断ち切るかのようで、湊の中で何かが揺らいだ。
「その先を知ってはいけない」と、警告されたかのような感覚に、二人の間に漂っていた温かな空気が、一瞬冷たく変わった気がした。
「……今日は、ここまでにしようか」
湊は、かすかに震える声でそう告げると、芽衣に触れる寸前だった手をゆっくりと引き戻した。
芽衣も、湊の気持ちを感じ取ったのか、小さくうなずいて、ほほえみを浮かべた。
その優しい笑顔を見て、湊はほっとしたように息をつき、静かに手を下ろした。
「うん、そうだね……。ありがとう、湊くん」
そうして二人は、ずぶ濡れのまま、お互いに寄り添いながら、静かに眠りについた。窓の外では、まだ雨が降り続けていたが、その音はだんだんと遠く、そして心地よく感じられるようになった。
二人にとって、今はただ、一緒に眠りにつけることが何よりも大切だった。久しぶりの安堵が、心に広がっていく。
しかし、雷鳴が途切れたあの瞬間――まるで何か大切なものが切り離されたような感覚が、湊の胸の奥に、かすかに残っていた。