たくさんのショッピングバッグを手にぶら下げ、ホクホクとした顔で渋谷の街を母と歩く。これでもかというほど人の多いここは、よそ見をしていたら誰かにぶつかってしまいそうだ。
「お昼にはまだ少し時間があるから。お茶でもする」
 母はキョロキョロと、この辺りにあるショップを探すように見まわし訊ねる。けれど、場所が場所だ。この街はどこも混んでいて、ちょっと休憩というのもなかなか難しい。
「家の方に戻りたい」
「え……。もう、帰るの?」
 一緒に過ごす時間が午前中だけになるとは思いもしなかった。母の顔にはそうはっきりと書かれていた。慌てて首を振った。
「商店街の先に、可愛いカフェがあるって麗華が教えてくれて」
 麗華と言って通じるかわからないのに、友達だという説明を加える言葉が喉元で閊える。言葉がスルリと出るには、もう少し時間がかかりそうだ。
 麗華は、ママとよく出かけるくらい親子仲はよく。そのカフェにもママと一緒に行くことがあるという。片や私はと言えば、一緒に行動する相手が祖母だから。行くところと言えば、ときわ商店街の中にある甘味処だ。厳つい顔をした源太さんという職人さんがいて、見た目のギャップからは想像もつかないとても繊細で美味しい和菓子を提供していた。和菓子屋に併設された小さな甘味処では、美味しい抹茶を淹れてくれて、あんみつなどの甘味だけではなく、売られている和菓子も食べることができる。
「そう。じゃう、その麗華ちゃんが紹介してくれたカフェに行こうか」
 祖母とでは滅多に行くことができないだろうカフェに、今日は麗華のように母親と行くことができる。心の中の音符がまた弾む。母は母で、まだ一緒に居られるというように、子供のような笑みを浮かべていた。こんなにわかり易い笑顔を見せられてしまうと、つられて頬が緩んでしまう。
 母と再びタクシーに乗り込んだ。家を出る時には手持無沙汰で何も話せず黙りこくっていたけれど。食事や買い物を一緒にしたことで心がほぐれていた。
「若い子たちは、ああいうところでお買い物をするのね」
 母はショッピングバッグへ視線を向ける。
「可愛いものばかりで、お小遣いだけじゃ足りないくらい」
 肩を竦めると母は笑みを浮かべる。
「お小遣い、値上げしてあげたいけれど。お祖母ちゃんと相談してみてね」
 お金の管理を全て祖母に任せている母は、私のお小遣いの金額も委ねていた。勝手に値上げなどしたら、祖母から説教をされてしまうかもしれないので、しっかりと相談しなくてはならない。
 タクシーは商店街を回り込み、公園の先にある旧商店街通りの手前で止まる。麗華から聞いた話だと、この道の奥に雑貨屋があってその向かい側にカフェがあるらしい。
「あれじゃないかしら」
 母が指をさした先には、白を基調とした木目の建物がうかがえた。出入り口までは低く甲板になっていて、二段ほど階段を上った先のドアは綺麗な空色だった。
 休日の今日、松下は何をしているのだろう。初めて見かけた時のように高架下でバスケのシュートを決めているだろうか。それとも、池田と遊んでいるのだろうか。授業もろくに聞かずにあれだけの成績を維持しているのだから、もしかしたら勉強に精を出しているのかもしれない。そこまで考えて、松下空に関する思考を止める。最近の私は、「空」という言葉に反応し過ぎるようだ。
 母とカフェに向かおうと足を前に出したところで、私のスマホが鳴った。相手は麗華だ。母が頷くのを見て通話に出た。
「もしもし。うん。今? 前に教えてもらったカフェに行こうとしてた」
 母が私の耳元へ小さな声で囁いた。
「麗華ちゃんも一緒にどうかしら?」
 母の気遣いに笑みを浮かべて麗華を誘った。電話の向こうでは、麗華が嬉しそうな声を上げていた。
 カフェの名前は「SAKURA」といった。髪の長い女性が清潔感のある真っ白い開襟シャツと黒のカフェエプロンをして席へ案内してくれた。席に着いて間もなく、息を弾ませ麗華がやって来た。大きく手を振りながら店内に入ってくる。やって来てすぐに麗華は母に挨拶をした。
「こんにちは。真白と同じクラスで親友の立花麗華です」
 母が一緒だと知っても臆することなく、麗華の態度は明るくハキハキとしていて好感が持てる。少しの躊躇いもなく「親友」と口にする麗華に嬉しくて笑みを返した。
 私の隣に座った麗華は、メニューを手にしてこちらへ見せる。
「ここは、食べ物も飲み物もとても美味しいんですよ」
 はしゃぐようにして勧める麗華は、まるでここの店員みたいだ。初めて会う母とも、前からの知り合いみたいな口ぶりで会話をする。かと言って生意気な口調ではけしてない。相手が年上であることや、私の母親であることを念頭に置いて話すのだから流石麗華というところだ。
「私たちはそんなにお腹は空いてないのだけれど、麗華ちゃんはしっかり食べてね」
 母に勧められ、麗華は迷うことなく本日のランチ「ローストビーフとパスタの贅沢ランチ」を注文する。遠慮などしないのも麗華のいいところだ。
 私と母は、デザートを注文した。母はガトーショコラとコーヒーのセット。私は、パフェ・ショコラとカフェラテのセット。
「どっちもチョコ系なんて、仲がいいね」
 麗華がにこやかな表情で、私と母を交互に見る。
 そうか。私達、仲がいいように見えるんだ。驚きの発見だ。目の前の母は麗華の言葉に、とても嬉しそうな顔をした。
 些細なことで喜ぶ母は、可愛らしい。いつもきびきびとして、仕事一筋に生きていても一般に言うところの母親と同じなのだろう。自分の子供を可愛いと思い、愛しいと感じてくれているのだろう。
 母親と関わって生きて来なかったことを、寂しいとひねたことはない。傍にはいつだって祖母がいたからだ。本当なら母や父から貰うはずの愛情を祖母から受け取ってきた。傍から見れば歪な家族の形なのだろうけれど。私にしてみれば、充分すぎるほどの愛だった。だから、今の今まで母から貰うはずだった愛情について、暗く思い悩み考えることはなかったのだけれど。気がつけば麗華の言葉に目の前がゆらゆらとしていた。
 ああ、なんだか泣けてくる。こんな風に涙が込み上げてくるなんて、自分でも気がつかないうちに母親の愛情を欲していたのかもしれない。テーブルの端に置いてある紙ナプキンに手を伸ばそうとしたら、麗華がそっとハンカチを渡してくれて、また泣きそうになった。
 母と麗華は、よく話をした。主に、私のことについてだ。共通の話題と言えば私しかないのだから当然なのだろうけれど。それにしたって、よくもこう話すことがあるなという程だ。
 麗華は、ことある毎に私のことが大好きだと、照れるそぶりもなく何度も言ってくれて。母は母で、かまってあげられないのに真っすぐに育ってくれて、なんて話す。あまりの褒め合いに照れくさくなり、ちょっとトイレと一度席を立ったくらいだ。そこまで褒められるような生き方をしてきたかと言えば、首を傾げるばかりだからだ。二人にとって私という存在が、今この場の話のネタになっているだけなのだろうと思うことにした。
 席に戻ると、母の姿がなかった。どうしたのかと首を巡らせると、外に出て誰かと電話で話しているようだった。仕事のことだろうか。忙しい人だ。本来なら、休日も仕事のことで何かしらバタバタとしているわけだから、そろそろ解放してあげなければいけない気がする。
「真白のお母さん。素敵な人だね」
 麗華に言われて、そう? なんてとぼけた返答をしてみたけれど、親を褒められるというのは自分が褒められた時より嬉しいものだと知った。
「聞いてた話だと、仕事ばかりで真白のこと少しもわかっていないのかと思ってた。でも、ちゃんと見てるよね。掃除も洗濯も料理も、真白がこの年で覚えたって話す時、すごくいい表情してたよ。真白、いつでもお嫁に行けるじゃん」
 麗華がからかう。そこで、母が店内に戻ってきた。
「ごめんね」
 外に出て話し込んでいたことを謝る母に首を振ったところで、店の外に不審な男がいることに気がついた。チラチラと店内を窺い、こそこそと隠れるようにしてこちらを見ている。目深に帽子をかぶっているので、どんな顔をしているかまではわからないが、顔色は浅黒く力仕事をしているような体形をしていた。
商店街に変な男がいた……。
 瞬時に松下の言葉が思い起こされる。
 もしかして、麗華の父親……?
 瞬間、心臓がドクリと大きく音を立てた。
 テーブルに向かって歩いてきた母も、椅子に座っている麗華も、外にいる男の存在にまだ気がついていない。麗華の隣の空いた椅子には、緑色の小さなポーチが置かれている。普段から麗華が持ち歩いている、ナイフが潜んでいるポーチだ。
 ポーチの中にある光るナイフを想像する。何度も何度もナイフを手にし、父親を刺す瞬間を想定してきただろう麗華。いつも明るい麗華からは到底想像できない暗く淀んだ眼と。ギリギリの場所で自分を保ち、母親を守るためならどんなことも厭わない、ギラギラとした感情。安らぐ色をした緑色とは対照的な殺意を秘めたポーチの中には、それらがいつでも顔を出せるように、静かに。だけれど、強い意志を持って潜んでいる。
 麗華の秘めた決心から必死で視線を逸らし再び外を見た。男は、まだいた。こちらの様子を窺っているだけで、中に入ってくることも、この場から離れることもなくそこにいる。
 お願い、麗華。気がつかないで。視線を外に向けないで。
 願うように目を伏せ、二人に気がつかれないよう自然な素振りを装いつつ、再び外の男に視線を向ける。何度目かの視線に気がついた男が、ビクリと小さく体を揺らした。見られていたことに慌てたのか、背を向けるとスッと姿を消した。
 二人に気づかれないように、隠れてしまった男の行方を視線だけで探す。目を凝らして見たけれど、ここからではもう姿は窺えなかった。この場所から見えないだけで、もしかしたらまだ近くに潜んでいるのかもしれない。そう思うと、心がザワザワとしてくる。
 なんなのよ。どうして会いに来ちゃったのよ。麗華に殺されたいの? 実の娘にナイフで刺されたいの? 私は嫌だよ。麗華にそんなことして欲しくない。大事な親友なの。お願いだから、今すぐ消えて。この町から出て行って。
 祈るように麗華と母を交互に見て、男が再び店内を覗きこむようなことがないかと気が気ではない。一分が経ち、二分が経ち。五分、十分と経っても、再び男の姿が現れることはなかった。きっとこの場所から離れたのだろうと考えて、気持ちを落ち着かせる。男がいなくなったと思うと、急に体から力が抜けていった。食べかけのパフェ・ショコラが同じように力をなくし器の中で溶け始めていた。
「早く食べなよ。中のアイスがドロドロじゃん」
 麗華が笑う。楽しそうに笑う。
 お願いだから、この笑顔を奪わないで。麗華にナイフを握らせないで。
 動揺を気付かれないようにパフェ、・ショコラにスプーンをさして口へと運ぶ。形を崩しても尚、冷たさと甘さを残すパフェの真摯な姿を倣うべく普段通りにしようと表情を緩めた。
「真白。ごめんね。お母さん、ちょっと行かなくちゃならなくなったの……」
 男に気を取られていると、母が申し訳なさそうに言った。
「お仕事ですか?」
「……ううん。お祖母ちゃんからね、電話があって……」
 麗華に訊ねられたが、答えは私に向かって返された。
「え、お祖母ちゃんから? 何かあったの?」
 てっきり仕事の電話だと思っていた。祖母は、向こうに着いたという連絡をくれることはあっても、今まで母が帰らなければならないような電話をしてくることなどなかった。
「お祖母ちゃん、具合が悪くなったの?」
 祖母が高齢なのは理解していた。けれど、目の前からいなくなるなんてことは想像もしていなくて。一瞬で心の中が焦りと不安に満ちていく。
「大丈夫よ。お祖母ちゃんの具合が悪くなったわけじゃないから」
 安心させるために言ったというよりも。実際、そうなのだというニュアンスに聞こえた。母が伝票を手にして席を立つ。
「他にも何か食べる?」
 自分が帰ったあのことを気づかい訊ねる母に首を振る。
「お腹一杯だから」
「そう。ごめんね。麗華ちゃんも、ゆっくり食事していってね。今度、うちにも遊びに来てね」
 慌てたように会計を済ませると、買った荷物を手にする。
「これ、家に置いてくるわね」
 ビーズのアクセサリーが収まる袋だけを残し、席を離れる母のあとを店の出入り口までついていく。忙しない様子の背中に向かって声をかけた。
「今朝は、ごめんなさい……」
 玄関先での険悪な態度について謝ると、母の目が穏やかに緩まり頭を撫でられた。華奢で、温かな手だった。柔らかな笑みを浮かべて頷く母を見送った。
 席に戻り、やっと謝れたことに息を吐く。それにしても祖母から電話なんて、何かあったのだろうか。向こうで父ともめたのか。不安な顔をしていると麗華が笑みを浮かべて提案した。
「ねぇ。食べたらさ、カラオケに行かない?」
 麗華の言うカラオケとは、カラオケボックスのことではない。麗華の母が経営するスナック「アヤメ」の、客用に設置してあるカラオケのことだ。お小遣いの少ない高校生の私たちに、麗華のママから営業時間外なら使ってもいいと許可を貰っていた。
 口いっぱいにパスタを頬張る麗華に向かって大きく頷いた。
 母が店を出たあと「SAKURA」で少しゆっくりと時間を過ごしてから商店街を通りスナック「アヤメ」に向かった。「アヤメ」に着くまでの間、麗華に気がつかれないよう度々周囲を窺っていた。さっきの男が麗華の前に現れたりしないかと、不安でならなかったからだ。
 麗華にナイフを使わせるわけにはいかない。もし万が一そのような事態になったらどうすればいいだろう。交番まで警察官を呼びに行っている時間はない。まごまごとしている間に、麗華が父親を刺してしまうかもしれない。道の端や店先を注意深く観察し、何か硬く丈夫な物がないか探した。最悪、看板でも箒でも何でもいい。麗華の手から握るナイフを落とし、やってきた父親を追い払うことができればそれでいい。臨戦態勢の心構えでいながら、何も起こらないようにと願い商店街を歩く。
 このときわ商店街は、活気にあふれている。商店同士の繋がりが濃く、経営者同士の仲がいいのだ。「アヤメ」は商店街の中にある店ではない。駅の裏側の通り。所謂、飲み屋街の中にある。麗華のママがこの町にやって来た時、商店街の人たちは分け隔てることなく困ったことがあれば声をかけるようにと親しみを込めて伝えていた。そんなこともあってか、麗華のママも商品を仕入れる際。主に酒類や食事で出す麺類に調味料などは、この商店街でそろえていた。そうそう。冬場の寒い日なんかは、創業が明治という老舗のおでん屋があるのだけれど、そこのおでんを鍋で買い込み客へと提供しているくらいだ。私も、染み染みの美味しい大根を食べさせてもらったことがある。ここのみんなは、助け合いながら生きている。
 幸代(さちよ)さんという若い奥さんがお店のレジに立っているパン屋さんに向かい、おやつ代わりのパンを買い込んだ。女子高生は、とにかくお腹が空くのだ。メロンパンにウインナーロール。ベーコンエピにゴロゴロチーズパン。ゴロゴロチーズパンというのは、一センチほどのサイコロ形に切られたチーズが、本当にゴロゴロとパンの中に散りばめられている、ちょっと贅沢でめちゃくちゃ美味しいパンだ。幸代さんのところでは、必ずこのゴロゴロチーズパンを買う。
 パンの袋を抱え、ホクホクとした顔をする。さっき見かけた男の気配を感じることなく、アヤメに辿り着きほっとした。鍵を開けて中に入り、買ったパンをさっそくテーブルに広げた。店が始まる前の「アヤメ」を占拠して、私達はインスタントのコーヒーに牛乳を入れてカフェオレを作る。「SAKURA」で飲んだコーヒーには全く敵わないけれど、このチープさがいいのだ。
 パンに齧りつきながら、渋谷で買ったお揃いのビーズアクセサリーを麗華へプレゼントした。
「うっそ。いいの?」
 嬉しそうに笑みを浮かべ、麗華が包みを開ける。
「ブレスレットとリングだ。しかも、私の好きなグリーン」
 麗華は緑色が好きだ。癒される色が好きっていうことは、麗華の歩んできた人生に関係している気がする。生きた心地のしなかった幼少時代を今も心の中で引き摺っているのかもしれない。もしもそうなら、この先そんな苦しい記憶に縛られない世界で生きて欲しい。再び頭を過った不審な男を追い払い、目の前で美味しそうにパンへと噛り付く麗華を見る。この幸せそうな顔をずっとこのまま。
 自分のアクセサリーに選んだ色は、ブルーだった。好きな色は白だけれど、空の色と同じブルーにした。ここまで来たら、もう重症だ。自分でも始末に負えない。
「学校にしていっちゃおうか」
 麗華は腕に嵌めたブレスレットと、指に飾ったリングを照明にかざして微笑む。
「担任の沢山は意外とぼんやりしてるから、気がつかないでしょ」
 麗華は、イタズラにクスッと笑う。
「でも、体育の竹内に見つかったら、ガミガミ言われちゃうよ」
 それは嫌だと、麗華が肩を竦める。そこまで嫌われている竹内って、どうなんだろう。クスクスと顔を寄せ合い笑った。
 営業時間の夕方食事時近くまで、私達はこれでもかというほどに熱唱をした。さっき食べたデザートとパンのカロリーを必死になって消費しようと試みていた。頭の片隅では「SAKURA」で見かけた男が時折チラチラと浮かんでは消えて、心の中にキリキリと嫌な音を立てていた。
 家に戻っても母の姿はなかったが、一旦帰ってきた気配はあった。麦茶を飲んだグラスが、シンクに置いたままになっているし、買い物をした品々がリビングに置かれていたからだ。
 父と祖母の間に何かあったのかもしれないと少し気がかりだったけれど、祖母に何かがあったわけではないと言っていたから、それほど気にもしていなかった。祖母からの用事のあとは、仕事で忙しくしているのだろう
 お風呂に入ったあとベッドに寝転がり、麗華とお揃いで買ったブレスレットとリングをつけて眺めた。綺麗な空色を見て頬が緩む。
 松下空は、今頃何をしているのだろう。机に向かって勉強をしているのだろうか。それとも、あの高架下でバスケをしているのだろうか。もしもそうなら、またこっそりと覗きに行きたい。シュートを放つ華麗な姿を想像しているうちに、自然と瞼が下りてくる。母と出かけたことは楽しかったけれど。気を遣っていなかったと言えばそうではないから、疲れてしまったみたいだ。松下を想いながら瞼を持ち上げることもできず、そのまま朝を迎えた。