——浅見くんへ。



 こんにちは。桜庭彩葉です。

 お元気ですか?

 勉強は順調ですか?
 クラスで浮いてはいませんか?
 恋は、できていますか?
 
 私は元気です。

 ……なんて、死んじゃったのに元気だなんて、笑っちゃうね。
 でも、私は元気です。
 きっと元気もりもりで、今でも浅見くんのそばにいて、浅見くんのことをじーっと見ていると思います。

 浅見くんに、伝えたいことがたくさんあるんだ。
 まず、ごめんなさい。
 余命半年なんておどして、ごめんなさい。
 たくさんわがままを言ってしまって、ごめんなさい。
 浅見くんを利用するようなことをして、ごめんなさい。
 ……私が近づいたせいで、浅見くんを苦しめてしまって、ごめんなさい。

 私はずっと、小説を書いていました。
 でもね、別に小説家になりたかったわけじゃないの。
 ただ、本が好きで。小説が好きで。いつからか、自分も書いてみようかなぁ、って思うようになったの。
 小説を書いている人はね、公募、だとか、新人賞、みたいなものに小説を出す人も多いんだって。
 でも、私は興味がなくて。
 誰に見せることもなく、思ったことを書き連ねることが好きだった。
 ただ、それだけだった。

 そして、隠れて小説を書いていた高校一年生の夏、病気が発覚して、余命が言い渡されました。

 この命の最期に、私ははじめて、恋のお話が書きたいと思った。
 恋のお話、っていうか……私小説、っていうのかな? 遺書、に近いものかもしれない。まぁ、最期だしね。
 なんで恋愛なのかっていうと、はじめて好きな人ができたから。
 私の人生の中で、私の小説を唯一読んでくれた浅見くんを、私の恋の相手として書いてみたかったから。
 って言っても、なんのことだかわかんないよね。
 実は、浅見くんは私の小説を読んだことがあるんだよ。詳しくは省略するけど、ヒントは図書館でのこと! 思い出せるかなぁ?
 私は書くことが好きだったけれど、自分の文章を誰かに読んでもらえるなんて思ってなかった。
 だから、浅見くんがくれた〝言葉〟は、本当に、本当に、宝物だったんだ。
 こんなことを言っても伝わらないかもしれないけれど。
 ……私の小説と巡り合ってくれて、ありがとう。

 それから、私は浅見くんのことが気になって。高校で、ずっと浅見くんのことを調べていました。
  浅見くんの制服を見て、同じ高校の同級生だって気づいたの。それで、高校の中をしらみつぶしに探してた。ストーカーって呼ばれてもしかたないかも? ごめんね。
 そして、私は浅見くんに初恋をしました。
 異性に臆病なところ。
 親友の矢崎くんにだけは百パーセント、心を開けるところ。
 裏口の猫ちゃんをいつもやさしく撫でてるところ。
 全部好きだよ。全部、全部、好きだよ。
 小説のこと、ずっと隠しててごめんなさい。勝手に自分のことを小説にされたら怒るかもしれないと思って、言えなかった。
 最後まで、この小説も、私の気持ちも、隠し通すつもりだった。
 でも……。

 やっぱり読んでほしいって思っちゃった。
 わがままで、ごめんね。

 本当は、話しかけるつもりなんてなかった。
 遠くから見ているだけで満足だった。
 でもあの日……浅見くんが、私を見つけてくれて。
 私はどうしても、この再会を、運命だとしか思えなかったの。

 好きになって、ごめんなさい。
 ずっと一緒にいて、ごめんなさい。
 私にはじめての恋をくれて、ありがとう。
 私の気持ちに応えてくれて、ありがとう。

 あなたは私の、運命の人だよ。



 桜庭彩葉