「……花火……」
膝の上で両手を握り、祈るように言葉を発した。
口の中がカラカラに乾いていることに気づく。
「花火、観に行こう」
勢いで、言ってしまった。
言ってから、どきどきしはじめて、背中に変な汗が滲むのを感じた。
桜庭を元気づけるには、もうこれしかなかった。
俺自身が桜庭を連れ出し、楽しい世界へ連れていくしかない。もう、ほかの方法が思いつかなかった。
でも、なんでそこまでするのかと言われるとわからない。
ふたりで花火なんて、デートのようなものだ。
桜庭にまた、変な期待を持たせることになってしまう。俺は桜庭の好意を利用しない。だから、安易に近づくのはよくないとわかっているのに。
それでも、耐えられなかった。
桜庭が死について語るのを、今すぐ止めたかった。
この行動が正解かなんて、わからないけれど。
「花火……?」
背後で、桜庭の不思議そうな声がする。
勢いで誘ってしまったものの、もし拒否されたらと思うと怖くなる。やっぱり俺は、臆病者だ。
「……花火大会。俺、去年友達と行って、それが結構楽しくて。また行きたいって思ったんだ。だから……」
怖がっている自分を隠すために、つい身勝手な言い方になってしまった。
それでも、桜庭は笑って応えてくれた。
「ふふ。行こう。行きたい! 花火大会って、早くて七月くらいかな?」
「あ……そうだよな。シーズンがあるんだよな……。じゃあ先に、手持ち花火でやろう」
「わ、そういうの久しぶり! でも、今の時期から売ってるのかな」
「探すから」
江戸川の花火大会は八月末だ。あの花火を桜庭と見たかったけど、八月なんて待てなかった。桜庭の体調のこともあるし、なによりも、俺の気持ちが。
あと一ヶ月以上、モヤモヤし続けるなんて無理だった。たとえ手持ち花火なんて物足りないと思われても、なにか行動を起こしたかった。
これは俺の自己満足なのだろうか?
桜庭はくすくすと笑い続けている。
「あー、楽しみ! じゃあ今は温存して、少し寝ようかな。ね、私が寝るまでそこにいて」
寝るまで。
別にそれは、いいけれど。
「……もうすぐチャイム鳴るから、たぶん千夏さんに戻れって言われるよ」
「大丈夫。逃げられないように、捕まえとくから!」
桜庭の腕が伸びてきて、俺の手首を捕まえた。
細い指が、肌に食い込むくらい強く俺を掴んでいる。
「おやすみなさい」
首を曲げて顔を見ると、桜庭はすでに目を閉じていた。
左手は、やめてほしいのに。偶然かわざとか、桜庭はやっぱり左手を掴む。
赤い糸よりも強く、俺を離さない。
穏やかに眠る彼女を見ていると、彼女に課された運命を憎むことしかできなかった。
膝の上で両手を握り、祈るように言葉を発した。
口の中がカラカラに乾いていることに気づく。
「花火、観に行こう」
勢いで、言ってしまった。
言ってから、どきどきしはじめて、背中に変な汗が滲むのを感じた。
桜庭を元気づけるには、もうこれしかなかった。
俺自身が桜庭を連れ出し、楽しい世界へ連れていくしかない。もう、ほかの方法が思いつかなかった。
でも、なんでそこまでするのかと言われるとわからない。
ふたりで花火なんて、デートのようなものだ。
桜庭にまた、変な期待を持たせることになってしまう。俺は桜庭の好意を利用しない。だから、安易に近づくのはよくないとわかっているのに。
それでも、耐えられなかった。
桜庭が死について語るのを、今すぐ止めたかった。
この行動が正解かなんて、わからないけれど。
「花火……?」
背後で、桜庭の不思議そうな声がする。
勢いで誘ってしまったものの、もし拒否されたらと思うと怖くなる。やっぱり俺は、臆病者だ。
「……花火大会。俺、去年友達と行って、それが結構楽しくて。また行きたいって思ったんだ。だから……」
怖がっている自分を隠すために、つい身勝手な言い方になってしまった。
それでも、桜庭は笑って応えてくれた。
「ふふ。行こう。行きたい! 花火大会って、早くて七月くらいかな?」
「あ……そうだよな。シーズンがあるんだよな……。じゃあ先に、手持ち花火でやろう」
「わ、そういうの久しぶり! でも、今の時期から売ってるのかな」
「探すから」
江戸川の花火大会は八月末だ。あの花火を桜庭と見たかったけど、八月なんて待てなかった。桜庭の体調のこともあるし、なによりも、俺の気持ちが。
あと一ヶ月以上、モヤモヤし続けるなんて無理だった。たとえ手持ち花火なんて物足りないと思われても、なにか行動を起こしたかった。
これは俺の自己満足なのだろうか?
桜庭はくすくすと笑い続けている。
「あー、楽しみ! じゃあ今は温存して、少し寝ようかな。ね、私が寝るまでそこにいて」
寝るまで。
別にそれは、いいけれど。
「……もうすぐチャイム鳴るから、たぶん千夏さんに戻れって言われるよ」
「大丈夫。逃げられないように、捕まえとくから!」
桜庭の腕が伸びてきて、俺の手首を捕まえた。
細い指が、肌に食い込むくらい強く俺を掴んでいる。
「おやすみなさい」
首を曲げて顔を見ると、桜庭はすでに目を閉じていた。
左手は、やめてほしいのに。偶然かわざとか、桜庭はやっぱり左手を掴む。
赤い糸よりも強く、俺を離さない。
穏やかに眠る彼女を見ていると、彼女に課された運命を憎むことしかできなかった。