「俺も……聞きたいことが、あって。……女子が、暇つぶしっていうか……暇つぶしよりも楽しめることって、なに?」
随分とざっくりとした聞き方になってしまった。
時任さんも、俺の曖昧な質問に虚をつかれている。
「え……、なんだろう。私なら、だけど……カフェ巡りとか好きだよ。美術館に行くのも好きだし、服を見るのも好きかな……。でも人に寄るよね。インドア派とかアウトドア派とかあるし、女の子でも男子みたいに筋トレが趣味っていう子もクラスにいるよ」
「……そっか」
聞き方が悪すぎて、やっぱり知りたいことはわからなかった。
でも、もう少し。
ちゃんと、説明したら……。
口にするか、悩む。時任さんが不思議そうな顔で俺を見ている。
でも、チャンスは、今しかないんだ。
「桜庭、だったら、どうかな」
名前を出してしまった。
時任さんは一瞬の間を開け、すぐに状況を飲み込んだ。
「えっ。あっ……。……彩葉ちゃん、だったら、この前ふたりでカラオケ行ったよ。歌うの好きなんだって。……私は苦手なんだけど、聞くのは好きだから、楽しかった。でも彩葉ちゃん、途中で疲れちゃって。半分はおしゃべりになっちゃったけど」
「カラオケ……」
俺も苦手だけど、聞くのは好きだ。でも途中で歌えなくなったのは、体力的にもう難しい状況なのかもしれない。
時任さんも俺の役に立とうとしてくれているのか、さらに頭を捻っている。
「あとはね、知らない場所を歩くのが好きって言ってた。よくひとりで都心のほうに行って、変な雑貨屋さんとか知らない専門店とかに入ってみるんだって。そうやって歩きながら、街とか人を観察するのが楽しいみたい。あとは……山も海も好きって言ってたかな」
全部、アクティブな遊びだ。少なくとも部室や図書館にこもるようなタイプじゃない。
でもこの前、休日の過ごし方を聞いたときはごろごろしているとしか言っていなかった。
そういえばいつかも、遠いところはもう無理だと言っていたし。……それくらい、体が弱っている、ということだろうか。
「……あ。あと、花火大会!」
時任さんが胸の前で軽く手を握り、声に力を込める。
「毎年、家族で花火観に行ってるんだって。夏といえば花火大会らしくて、彩葉ちゃんが企画立てて家族を連れていくの。花火、好きみたいだよ」
花火大会……。
渉と行った去年の花火大会を思い出した。
俺は去年、はじめて花火が好きになったのだ。インドア派の俺にしては珍しい発見だった。
「あとは、なんだろう……。ごめんね、私まだ二ヶ月しか彩葉ちゃんと一緒にいないから、彩葉ちゃんのことよく知ってるわけじゃなくて。うー……」
「あ、いいよ。ありがとう。俺も、参考になった」
勢いで参考になった、なんて言ってしまって、体が熱くなる。そんなことを言ったら、いよいよ俺と桜庭が付き合っていると勘違いされてもおかしくない。
……名前を出した時点で、もう手遅れなのだろうけど。
時任さんが俺を見つめる。
話の切り上げ方がわからなくなって、無理やり締めた。
「本当にありがとう。……あの。この話、内緒にして」
時任さんは空気を読んだように、笑顔になる。
「うん。私も……内緒にしてね」
小さく手を振って、時任さんがその場を離れる。
はじめて女子と普通に話せたような気がした。いや、桜庭とは今までも話していたけれど、桜庭みたいにはじめから好意的な人じゃなくて、普通の同級生と。
女子との恋バナも、悪くない。
無駄に避けてきたけれど、男子とは違う楽しさがあるんだな。
俺はずっと、誰かに恋をしないようにと、その機会を逃し続けていた。
「……あの。浅見くん」
気づくと、時任さんが走って戻ってきていた。
先ほどとは違い、どことなく神妙な顔つきになっている。
「ごめんね。……お節介かもしれないけど、やっぱり話しておこうかなって。彩葉ちゃん、いま保健室なの。一時間目の体育で倒れちゃって。でも、たいしたことないみたいなんだけどね」
随分とざっくりとした聞き方になってしまった。
時任さんも、俺の曖昧な質問に虚をつかれている。
「え……、なんだろう。私なら、だけど……カフェ巡りとか好きだよ。美術館に行くのも好きだし、服を見るのも好きかな……。でも人に寄るよね。インドア派とかアウトドア派とかあるし、女の子でも男子みたいに筋トレが趣味っていう子もクラスにいるよ」
「……そっか」
聞き方が悪すぎて、やっぱり知りたいことはわからなかった。
でも、もう少し。
ちゃんと、説明したら……。
口にするか、悩む。時任さんが不思議そうな顔で俺を見ている。
でも、チャンスは、今しかないんだ。
「桜庭、だったら、どうかな」
名前を出してしまった。
時任さんは一瞬の間を開け、すぐに状況を飲み込んだ。
「えっ。あっ……。……彩葉ちゃん、だったら、この前ふたりでカラオケ行ったよ。歌うの好きなんだって。……私は苦手なんだけど、聞くのは好きだから、楽しかった。でも彩葉ちゃん、途中で疲れちゃって。半分はおしゃべりになっちゃったけど」
「カラオケ……」
俺も苦手だけど、聞くのは好きだ。でも途中で歌えなくなったのは、体力的にもう難しい状況なのかもしれない。
時任さんも俺の役に立とうとしてくれているのか、さらに頭を捻っている。
「あとはね、知らない場所を歩くのが好きって言ってた。よくひとりで都心のほうに行って、変な雑貨屋さんとか知らない専門店とかに入ってみるんだって。そうやって歩きながら、街とか人を観察するのが楽しいみたい。あとは……山も海も好きって言ってたかな」
全部、アクティブな遊びだ。少なくとも部室や図書館にこもるようなタイプじゃない。
でもこの前、休日の過ごし方を聞いたときはごろごろしているとしか言っていなかった。
そういえばいつかも、遠いところはもう無理だと言っていたし。……それくらい、体が弱っている、ということだろうか。
「……あ。あと、花火大会!」
時任さんが胸の前で軽く手を握り、声に力を込める。
「毎年、家族で花火観に行ってるんだって。夏といえば花火大会らしくて、彩葉ちゃんが企画立てて家族を連れていくの。花火、好きみたいだよ」
花火大会……。
渉と行った去年の花火大会を思い出した。
俺は去年、はじめて花火が好きになったのだ。インドア派の俺にしては珍しい発見だった。
「あとは、なんだろう……。ごめんね、私まだ二ヶ月しか彩葉ちゃんと一緒にいないから、彩葉ちゃんのことよく知ってるわけじゃなくて。うー……」
「あ、いいよ。ありがとう。俺も、参考になった」
勢いで参考になった、なんて言ってしまって、体が熱くなる。そんなことを言ったら、いよいよ俺と桜庭が付き合っていると勘違いされてもおかしくない。
……名前を出した時点で、もう手遅れなのだろうけど。
時任さんが俺を見つめる。
話の切り上げ方がわからなくなって、無理やり締めた。
「本当にありがとう。……あの。この話、内緒にして」
時任さんは空気を読んだように、笑顔になる。
「うん。私も……内緒にしてね」
小さく手を振って、時任さんがその場を離れる。
はじめて女子と普通に話せたような気がした。いや、桜庭とは今までも話していたけれど、桜庭みたいにはじめから好意的な人じゃなくて、普通の同級生と。
女子との恋バナも、悪くない。
無駄に避けてきたけれど、男子とは違う楽しさがあるんだな。
俺はずっと、誰かに恋をしないようにと、その機会を逃し続けていた。
「……あの。浅見くん」
気づくと、時任さんが走って戻ってきていた。
先ほどとは違い、どことなく神妙な顔つきになっている。
「ごめんね。……お節介かもしれないけど、やっぱり話しておこうかなって。彩葉ちゃん、いま保健室なの。一時間目の体育で倒れちゃって。でも、たいしたことないみたいなんだけどね」