「なに?」
言い淀んでいる彼女に催促するものの、声のトーンがきつくなってしまった。
俺は異性に慣れなさすぎだ。桜庭は別として。
「あの……」
時任さんが意を決したように顔を上げ、しかし俺と目が合うとやっぱり、目を逸らした。
「もうすぐ、矢崎くんの誕生日なんだけど……。……矢崎くん好きなもの、知ってたり、する?」
え……。
つい、言葉に窮してしまった。
なにかと思えば、恋の相談だった。
よりにもよって、この俺に。
「ごめんなさい……。浅見くんって矢崎くんと仲がいいから、なにか知ってるかなって思って。あと矢崎くん、浅見くんだけには私たちのこと……話したいって、言ってたから」
あー、と、間を埋める声で時間を稼いだ。
まさか時任さんにそんなことを聞かれるとは思わず、頭が真っ白になった。
俺なんかにまで調査の手を伸ばすなんて、よっぽどすてきなサプライズをしたいのだろう。時任さんは一年のころ、同じクラスの男子にも話しかけられないタイプだった。
こうなると、俺も心して答えずにはいられない。
「渉は……時任さんにもらったものなら、なんでも喜ぶとは思うけど。案外乙女っぽいところがあるから、おそろいのキーホルダーとか、ネックレスみたいなのもいいかも……。あとは……意外と甘いものが好きだから、そういうもの食べに行ったり、手作りスイーツとかも喜ぶかな」
「……え。そうなんだ」
時任さんの表情がふっと綻んだ。
普段、男子には見せない表情だった。でも俺の前でそれを見せたのは、渉がきっかけなんだろう。
恋は、人を変える。
時任さんから漏れ出る感情がピンク色に色づいて、廊下をほんのりと染めている。
「ネックレスって……矢崎くん、そういうのつけてくれるのかな」
「好きだと思う。私服だといろんな小物つけてるから、アクセサリーは全般いけると思うよ。あとは、キャップなんかもいいかも」
「キャップ……。私、あんまり帽子は詳しくなくて」
「まぁ、なんでもいいよ。普段もいろんなのかぶってるし。ただ、あんまり高いものだと気を遣うだろうから安モノでいいと思う。気持ち重視で」
質問を受けて、細々と答えた。スイーツで特に好きなのはチーズケーキ、キーホルダーなら、スマホにつけられる形状ならきっとつけてくれる。この前ハンカチ失くしたって言ってたから、ハンカチもいいかもしれない。
知識をフル動員してなんとか説明し終えると、こんな俺でも役に立つものだなと、自分を褒めたくなった。
「ありがとう……。すっごく参考になった!
時任さんは両手を頬に当て、赤くなった顔を隠そうとしている。
「あの。……またなにかあったら、聞いてもいい?」
「あー、全然……。……いつでも」
「ありがとう」
時任さんが照れながらその場を離れようとする。
その瞬間、頭の中でなにかのスイッチが押されたように、引き止めなければと思った。
「あの」
時任さんが振り向く。でも、言葉が止まってしまう。
俺は、時任さんが渉に抱く感情がまだわからない。
わからないけれど、後悔だけはしたくなかった。
あと数ヶ月後——冬になり、虚しさに囚われている自分が頭に浮かんだ。近い将来、俺は強い後悔に襲われるような気がしていた。
このままじゃ、だめだ。
動かなきゃ。
なぜかはわからないけれど、強く、強くそう感じていた。
言い淀んでいる彼女に催促するものの、声のトーンがきつくなってしまった。
俺は異性に慣れなさすぎだ。桜庭は別として。
「あの……」
時任さんが意を決したように顔を上げ、しかし俺と目が合うとやっぱり、目を逸らした。
「もうすぐ、矢崎くんの誕生日なんだけど……。……矢崎くん好きなもの、知ってたり、する?」
え……。
つい、言葉に窮してしまった。
なにかと思えば、恋の相談だった。
よりにもよって、この俺に。
「ごめんなさい……。浅見くんって矢崎くんと仲がいいから、なにか知ってるかなって思って。あと矢崎くん、浅見くんだけには私たちのこと……話したいって、言ってたから」
あー、と、間を埋める声で時間を稼いだ。
まさか時任さんにそんなことを聞かれるとは思わず、頭が真っ白になった。
俺なんかにまで調査の手を伸ばすなんて、よっぽどすてきなサプライズをしたいのだろう。時任さんは一年のころ、同じクラスの男子にも話しかけられないタイプだった。
こうなると、俺も心して答えずにはいられない。
「渉は……時任さんにもらったものなら、なんでも喜ぶとは思うけど。案外乙女っぽいところがあるから、おそろいのキーホルダーとか、ネックレスみたいなのもいいかも……。あとは……意外と甘いものが好きだから、そういうもの食べに行ったり、手作りスイーツとかも喜ぶかな」
「……え。そうなんだ」
時任さんの表情がふっと綻んだ。
普段、男子には見せない表情だった。でも俺の前でそれを見せたのは、渉がきっかけなんだろう。
恋は、人を変える。
時任さんから漏れ出る感情がピンク色に色づいて、廊下をほんのりと染めている。
「ネックレスって……矢崎くん、そういうのつけてくれるのかな」
「好きだと思う。私服だといろんな小物つけてるから、アクセサリーは全般いけると思うよ。あとは、キャップなんかもいいかも」
「キャップ……。私、あんまり帽子は詳しくなくて」
「まぁ、なんでもいいよ。普段もいろんなのかぶってるし。ただ、あんまり高いものだと気を遣うだろうから安モノでいいと思う。気持ち重視で」
質問を受けて、細々と答えた。スイーツで特に好きなのはチーズケーキ、キーホルダーなら、スマホにつけられる形状ならきっとつけてくれる。この前ハンカチ失くしたって言ってたから、ハンカチもいいかもしれない。
知識をフル動員してなんとか説明し終えると、こんな俺でも役に立つものだなと、自分を褒めたくなった。
「ありがとう……。すっごく参考になった!
時任さんは両手を頬に当て、赤くなった顔を隠そうとしている。
「あの。……またなにかあったら、聞いてもいい?」
「あー、全然……。……いつでも」
「ありがとう」
時任さんが照れながらその場を離れようとする。
その瞬間、頭の中でなにかのスイッチが押されたように、引き止めなければと思った。
「あの」
時任さんが振り向く。でも、言葉が止まってしまう。
俺は、時任さんが渉に抱く感情がまだわからない。
わからないけれど、後悔だけはしたくなかった。
あと数ヶ月後——冬になり、虚しさに囚われている自分が頭に浮かんだ。近い将来、俺は強い後悔に襲われるような気がしていた。
このままじゃ、だめだ。
動かなきゃ。
なぜかはわからないけれど、強く、強くそう感じていた。