イベントごとに興味のない俺は、もともと花火大会にも興味がなかった。花火大会というものはたいてい、家族、恋人同士、男女混合の仲よしグループで参加するというのが暗黙の了解で、俺のように男友達としか関わらない人間には行くきっかけもなかった。
 そう話すと、渉が俺を誘ってくれたのだ。
 俺の性格を考慮して、男ふたりだけ、という浮いたメンバーで。

「覚えてるよ。それで?」

 珍しく心を動かされたあの光景を思い返しながら、答える。
 渉は俺の机に額をつけ、また頭を下げた。

「今年は、ほかの人と行かせてください。お願いします!」

 ぽかんとして、渉の右巻きのつむじを見つめる。
 ほかの人、というのはどう考えても時任さんだろう。
 付き合いはじめて最初の夏、都内で最大規模を誇る花火大会はデートにもってこいだ。去年行ったから下見は完璧。この感動を彼女と感じられたら、最高の夏になるだろう。
 でもそれを、わざわざ俺にお願いする理由がわからない。

「行ったらいいだろ、普通に。なんで俺に許可なんか取るんだよ」

 顔を上げた渉は、なんだかばつの悪そうな表情をしている。

「だって陽斗、来年も行きたいって言ってたからさ……」
「え」

 来年も?
 そんなこと、言っただろうか。
 記憶を巡らせる。そう言われれば、言った気がしなくもない。花火が終わって、駅に向かいながら感想を言い合っていたとき。
 俺はこれまでにないくらい、高揚していた。
 その勢いで、来れてよかった、来年も行きたい、と言ったような、気もする。

「俺、来年も行こうぜって言ったのにさ。やっぱり、その……カノジョと行きたくなって。ごめん」

 渉が小声で、心底申し訳なさそうに謝る。
 あまりに平身低頭とするので、思わず笑ってしまった。

「別にいいよ。そんなことすっかり忘れてたし。花火、楽しんでこいよ」
「ごめん。じゃあ今年はお祭り行こう。ふたりで金魚すくいして、チョコバナナ食べっこして、神社の裏で初キ」
「いや、それはいいから」

 この夏が、渉にとって一番の夏になるといい。
 ずっと好きだった人と、手をつないで。一緒に同じ光景を見つめて。かけがえのない時間を過ごして……。
 机の下で、左手の小指をさする。
 俺はこの夏も、なにも変わらないのだろう。
 部屋でごろごろして、ゲームをして、漫画を読んで。ときどき遊びに誘ってくれる渉や、ほかの男子生徒と近場へ出かける。
 渉を羨ましいとは思っていない。
 ただ少し、置いていかれるような気持ちになるだけだ。
 まわりの人が、恋をして、人と深く関わって、なにかが変わっていくのを少し寂しく思うだけだ。
 俺は恋をすることができない。
 それは単に、ほかの人のように恋愛感情が湧かないから……というのもあるだろうけれど。一番は、赤い糸の存在にある。
 俺には赤い糸で結ばれている、運命の相手がいる。ということは、逆を言うとその人以外とは誰とも結ばれないということだ。
 それを知っていて、誰かに恋をすることなんてできない。
 別れることを前提とした恋愛なんて、無意味なだけだ。
 だから、俺は恋をすることが許されない。
 異性から離れることしかできない。
 なにも、できない。
 動けない。

「……俺のことはかまわないから。写真撮ったら、見せろよな」

 俺は、人の恋を応援することでしか恋と関わることができない。
 そういう、運命なんだ。