それから紫音には僕が心を読めるようになってすぐの話をした。
父さんと母さんが離婚したこと、その後は母さんに引き取られてここへ引っ越して来たこと、心が読めるようになって人が怖くなってしまったこと。
それらを僕が吐き出すように話し、紫音はただ黙って聞いてくれていた。
「……そんな過去があったんだね」
「気にしないで。今となってはもう過ぎたことだよ……っていつまでも人が苦手なままの僕が言うのも変なんだけど」
自嘲気味に笑って見せたが、今度は紫音は笑ってくれなかった。
「その後、お父さんとは会ったあるの?」
「いやないよ」
「なんで?蒼唯はお父さんがまだ好きなんでしょう?……あっ、家が遠いとか?」
「父さんがいるところは引っ越す前の所だから日帰りで行って帰って来れる距離だよ」
「じゃあ、なんで?」
「怖いんだ。僕が心を読めるようになったのは母さんと家を出てからだから、父さんの心の中は一度も読んだことがない」
「……つまり?」
「父さんが僕をどう思っているのかを知るのが怖い。もしかしたら父さんは僕のことが嫌いなのかもしれない」
「それは、蒼唯のお父さんが言ってたことなの?」
「ううん。でも、きっとそうだ。そうでなければ二人は離婚しなかったし。今頃僕のスマホには父さんからメッセージが送られてきてるよ」
僕は父のアカウントが登録されて、トーク履歴が動かないままのスマホ画面を紫音に見せた。
「だから、会いに行っても無駄だし、僕は父さんに会って傷つきたくない」
そう言って下を向く僕の顔を紫音は覗き込んで悲しそうな顔をして言った。
「じゃあ、なんでそんなに苦しそうな顔をしてるの?」
僕は咄嗟に顔を上げた。
僕は今、そんな顔をしてたのか?
紫音と出会ってから、僕の表情は豊かになってしまったのだろうか?
目の前の心配そうな顔をしている紫音にもう大丈夫と示すため、顔を一度両手でパチンと叩き、作りなれてない不器用な笑顔を披露した。
紫音は心の声は隠せるくせに、表情から出る感情は隠せないらしい。
まったく器用なのか不器用なのか分からない人だ。
「さ、話はこれでおしまい。ここでの用事はまだ何か残ってるの?」
さっきまでの重い空気を引き摺ってしまうかと思ったがさすがは紫音。
僕が慣れてないながらに頑張って雰囲気を明るくしようとしているのを受けて紫音もいつもの調子で僕の手を引いた。
これが紫音がクラスで人気者になっている所以なのだろうな。
「あと行きたいところが一つ残ってるの!付き合ってくれる?」
僕に答える暇を与えずに、紫音は手を引っ張っていく。
僕は紫音を事故から助けたけれど、今は紛れもなく紫音が僕を救ってくれた瞬間だった。
父さんと母さんが離婚したこと、その後は母さんに引き取られてここへ引っ越して来たこと、心が読めるようになって人が怖くなってしまったこと。
それらを僕が吐き出すように話し、紫音はただ黙って聞いてくれていた。
「……そんな過去があったんだね」
「気にしないで。今となってはもう過ぎたことだよ……っていつまでも人が苦手なままの僕が言うのも変なんだけど」
自嘲気味に笑って見せたが、今度は紫音は笑ってくれなかった。
「その後、お父さんとは会ったあるの?」
「いやないよ」
「なんで?蒼唯はお父さんがまだ好きなんでしょう?……あっ、家が遠いとか?」
「父さんがいるところは引っ越す前の所だから日帰りで行って帰って来れる距離だよ」
「じゃあ、なんで?」
「怖いんだ。僕が心を読めるようになったのは母さんと家を出てからだから、父さんの心の中は一度も読んだことがない」
「……つまり?」
「父さんが僕をどう思っているのかを知るのが怖い。もしかしたら父さんは僕のことが嫌いなのかもしれない」
「それは、蒼唯のお父さんが言ってたことなの?」
「ううん。でも、きっとそうだ。そうでなければ二人は離婚しなかったし。今頃僕のスマホには父さんからメッセージが送られてきてるよ」
僕は父のアカウントが登録されて、トーク履歴が動かないままのスマホ画面を紫音に見せた。
「だから、会いに行っても無駄だし、僕は父さんに会って傷つきたくない」
そう言って下を向く僕の顔を紫音は覗き込んで悲しそうな顔をして言った。
「じゃあ、なんでそんなに苦しそうな顔をしてるの?」
僕は咄嗟に顔を上げた。
僕は今、そんな顔をしてたのか?
紫音と出会ってから、僕の表情は豊かになってしまったのだろうか?
目の前の心配そうな顔をしている紫音にもう大丈夫と示すため、顔を一度両手でパチンと叩き、作りなれてない不器用な笑顔を披露した。
紫音は心の声は隠せるくせに、表情から出る感情は隠せないらしい。
まったく器用なのか不器用なのか分からない人だ。
「さ、話はこれでおしまい。ここでの用事はまだ何か残ってるの?」
さっきまでの重い空気を引き摺ってしまうかと思ったがさすがは紫音。
僕が慣れてないながらに頑張って雰囲気を明るくしようとしているのを受けて紫音もいつもの調子で僕の手を引いた。
これが紫音がクラスで人気者になっている所以なのだろうな。
「あと行きたいところが一つ残ってるの!付き合ってくれる?」
僕に答える暇を与えずに、紫音は手を引っ張っていく。
僕は紫音を事故から助けたけれど、今は紛れもなく紫音が僕を救ってくれた瞬間だった。