「ご馳走様でした。父さん、今日はありがとう」
「いいんだ。今まで辛い思いをさせてた分をこれから償わせてくれ。帰りは送って行こうか?」
「友達と来てるから大丈夫。早く帰って弟の面倒でも見てあげて」
料理を食べた後、デザートのバニラアイスまで奢ってもらい僕らは店を出た。
父さんがお会計している間にブレスレットで紫音に合図を送ったし、もう少ししたら紫音はこのファミレスに戻って来るはずだ。
それまで待って、合流してから電車で帰ると七時を過ぎる頃だろうか。
紫音も居るしできるだけ早めに帰らないとなぁ。
紫音がここについたらまたブレスレットに合図が来るはずだし、待ち時間ギリギリまで父さんと話すために駐車場まで一緒に向かった。
「またいつか僕にも弟を紹介して欲しいな」
「もちろんだ。彰って名前で最近四歳になったばかりなんだ。俺も仕事の都合が良くければすぐに会いに行くからいつでもメッセージをくれ」
「うん。楽しみにしてる」
父さんはニコッとした顔で笑うと車に乗り込んだ。
エンジンをつける音を聞いて、この車の向かう先が僕の帰る場所と同じでないことに少しだけ寂しさを感じてしまう。
「そうだ!シオンちゃんにもよろしく言っといてくれ。最初蒼唯と一緒に居るあの子も見違えるほど美人になってびっくりしてしまったよ」
「えっ?なんで紫音を知って……」
父さんとの話で大輝や乃々さん、紫音の名前までは紹介していない。
父さんに僕の友達の名前をいきなり言っても混乱するだけだろうから僕は父さんとの話の中では「友達」としか言っていないはず。
父さんはなんで知ってるんだ?
頭がこんがらがってどうにかなりそうだった。
「あれ、人違いだったか?確か、昔小学校は違ったけど蒼唯と同い年のシオンちゃんって子がこの辺にいなかったか?ほら、よく公園で見た……」
(やっぱり人違いだったか?碧唯を迎えによく公園に行っていたはずなんだが……高校生にもなるともう誰が誰だか分からなくなってしまうな。俺ももう歳か)
「でも、蒼唯達が引っ越す前にどこかへ行ってしまったようだし俺の人違いだったんだろう。混乱させて悪かったな。俺もそろそろ帰るよ。蒼唯の言う通りたまには家族孝行しないとな」
「う、うん……。気をつけて帰ってね」
「蒼唯もな。身体に気をつけて過ごすんだぞ」
父さんは車を出し、駅とは逆の方向へ走り去って行った。
車へ向かって手を振り、車が交差点を左折して見えなくなると手を下ろし考え込んだ。
父さんの言っていたシオンと紫音は同一人物なのだろうか。
父さんの言った通り紫音もここに昔住んでいたと言っていた。
紫音のお母さんの死とお父さんの育児と仕事の両立をきっかけにお父さんの職場の近くに引っ越したとも。
確かな情報は少ないけど、少なくともここまでは父さんが言っていたことと完璧に辻褄が合っている。
もしかして僕は昔に紫音に会っているのか?
そんなことを考えていると左手のブレスレットから振動が送られてきた。
同時にスマホにも『いまファミレスの入口付近にいるんだけどどこにいるの?』とメッセージが入った。
慌ててファミレスの入口まで戻ると紫音は一目散に僕の方まで駆け寄ってきた。
「どうだった?お父さんとはお話できた?」
(上手くいっているといいんだけど……)
紫音の顔は笑顔だったが、僕を励ます準備はしていてくれたみたいだ。
「うん。また会う約束までしてきたよ。紫音のおかげだよ。本当にありがとう」
「私は何もしてないよ。蒼唯が頑張ったんだって!」
まるで自分事のように喜び、興奮気味語りかけてくるテンションは帰りの電車を降りるまで続いた。
「本当に上手くいって良かったよ!私、失敗してたらどうやって励まそうかずっと喫茶店でシュミレーションしてたんだからね」などとしきりに言っていたのは僕を父さんと会うように勧めた張本人として責任を感じていたからなのだろう。
安心が一転して興奮しているように見えた。
だけどそのせいでずっと聞きたかったことは聞けず仕舞いで、結局僕は紫音と昔会ったことがあるのかどうかは分からないまま別れてしまった。
その時はどうせまだ『お手伝い』は続くんだからまた明日聞けばいいと思って、モヤモヤはしていたものの大して重く受け止めずにいた。
でも、あの時無理をしてでも聞いとけば良かったと悔やんでも悔やみきれない後悔になってしまった。
「おい!蒼唯!」
「あ、おはよう大輝。乃々さん……どうしたのそんなに慌てて?」
いつもは教室で話しながら待ってくれているはずの二人が何故か昇降口まで降りて僕を出待ちしていて、何が何だか分からず混乱した。
酷く狼狽する乃々さんを宥めながら大輝は落ち着きもなく声を荒らげて言った。
「昨日の夜に紫音が倒れて意識がまだ戻らないって!」
「うそでしょ……」
震える手で触ったブレスレットからはいつまで経っても紫音からの返信は帰ってこなかった。
「いいんだ。今まで辛い思いをさせてた分をこれから償わせてくれ。帰りは送って行こうか?」
「友達と来てるから大丈夫。早く帰って弟の面倒でも見てあげて」
料理を食べた後、デザートのバニラアイスまで奢ってもらい僕らは店を出た。
父さんがお会計している間にブレスレットで紫音に合図を送ったし、もう少ししたら紫音はこのファミレスに戻って来るはずだ。
それまで待って、合流してから電車で帰ると七時を過ぎる頃だろうか。
紫音も居るしできるだけ早めに帰らないとなぁ。
紫音がここについたらまたブレスレットに合図が来るはずだし、待ち時間ギリギリまで父さんと話すために駐車場まで一緒に向かった。
「またいつか僕にも弟を紹介して欲しいな」
「もちろんだ。彰って名前で最近四歳になったばかりなんだ。俺も仕事の都合が良くければすぐに会いに行くからいつでもメッセージをくれ」
「うん。楽しみにしてる」
父さんはニコッとした顔で笑うと車に乗り込んだ。
エンジンをつける音を聞いて、この車の向かう先が僕の帰る場所と同じでないことに少しだけ寂しさを感じてしまう。
「そうだ!シオンちゃんにもよろしく言っといてくれ。最初蒼唯と一緒に居るあの子も見違えるほど美人になってびっくりしてしまったよ」
「えっ?なんで紫音を知って……」
父さんとの話で大輝や乃々さん、紫音の名前までは紹介していない。
父さんに僕の友達の名前をいきなり言っても混乱するだけだろうから僕は父さんとの話の中では「友達」としか言っていないはず。
父さんはなんで知ってるんだ?
頭がこんがらがってどうにかなりそうだった。
「あれ、人違いだったか?確か、昔小学校は違ったけど蒼唯と同い年のシオンちゃんって子がこの辺にいなかったか?ほら、よく公園で見た……」
(やっぱり人違いだったか?碧唯を迎えによく公園に行っていたはずなんだが……高校生にもなるともう誰が誰だか分からなくなってしまうな。俺ももう歳か)
「でも、蒼唯達が引っ越す前にどこかへ行ってしまったようだし俺の人違いだったんだろう。混乱させて悪かったな。俺もそろそろ帰るよ。蒼唯の言う通りたまには家族孝行しないとな」
「う、うん……。気をつけて帰ってね」
「蒼唯もな。身体に気をつけて過ごすんだぞ」
父さんは車を出し、駅とは逆の方向へ走り去って行った。
車へ向かって手を振り、車が交差点を左折して見えなくなると手を下ろし考え込んだ。
父さんの言っていたシオンと紫音は同一人物なのだろうか。
父さんの言った通り紫音もここに昔住んでいたと言っていた。
紫音のお母さんの死とお父さんの育児と仕事の両立をきっかけにお父さんの職場の近くに引っ越したとも。
確かな情報は少ないけど、少なくともここまでは父さんが言っていたことと完璧に辻褄が合っている。
もしかして僕は昔に紫音に会っているのか?
そんなことを考えていると左手のブレスレットから振動が送られてきた。
同時にスマホにも『いまファミレスの入口付近にいるんだけどどこにいるの?』とメッセージが入った。
慌ててファミレスの入口まで戻ると紫音は一目散に僕の方まで駆け寄ってきた。
「どうだった?お父さんとはお話できた?」
(上手くいっているといいんだけど……)
紫音の顔は笑顔だったが、僕を励ます準備はしていてくれたみたいだ。
「うん。また会う約束までしてきたよ。紫音のおかげだよ。本当にありがとう」
「私は何もしてないよ。蒼唯が頑張ったんだって!」
まるで自分事のように喜び、興奮気味語りかけてくるテンションは帰りの電車を降りるまで続いた。
「本当に上手くいって良かったよ!私、失敗してたらどうやって励まそうかずっと喫茶店でシュミレーションしてたんだからね」などとしきりに言っていたのは僕を父さんと会うように勧めた張本人として責任を感じていたからなのだろう。
安心が一転して興奮しているように見えた。
だけどそのせいでずっと聞きたかったことは聞けず仕舞いで、結局僕は紫音と昔会ったことがあるのかどうかは分からないまま別れてしまった。
その時はどうせまだ『お手伝い』は続くんだからまた明日聞けばいいと思って、モヤモヤはしていたものの大して重く受け止めずにいた。
でも、あの時無理をしてでも聞いとけば良かったと悔やんでも悔やみきれない後悔になってしまった。
「おい!蒼唯!」
「あ、おはよう大輝。乃々さん……どうしたのそんなに慌てて?」
いつもは教室で話しながら待ってくれているはずの二人が何故か昇降口まで降りて僕を出待ちしていて、何が何だか分からず混乱した。
酷く狼狽する乃々さんを宥めながら大輝は落ち着きもなく声を荒らげて言った。
「昨日の夜に紫音が倒れて意識がまだ戻らないって!」
「うそでしょ……」
震える手で触ったブレスレットからはいつまで経っても紫音からの返信は帰ってこなかった。