それから父さんと今まで会えなかった時間を埋めるようにたくさん話をした。
「今は母さんと二人で暮らしてる。料理が上達しちゃったよ」
「いつかお父さんも食べたいな」
(成長したなぁ)
「今は三人の友達と一緒に学校を楽しく過ごしてる」
「そうか。友達は大切にするんだぞ」
(友達と楽しそうでなによりだ)
そんな感じで、父さんが心から僕のことを思っていてくれていたことが話をするたびに分かっていった。
「父さんは今は何してるの?」
今まで穏やかな顔で話を聞いてくれていた父さんの顔が途端に曇った。
「仕事は離婚する前とは変わらないところに勤めてるのだが……」
父さんの話も徐々に歯切れが悪くなっていく。
(この子にそんなことを話してもいいものだろうか。傷つくかもしれない)
僕は父さんがさっき、咄嗟に隠した左手を見た。
確かにその内容は僕にとって酷なことだけど、なにより父さんが僕のこと心配してくれていることが嬉しかった。
「話してみてよ。大丈夫だから」
(……この子はこんな顔をすることができたのか。本当に優しい子だ)
父さんが僕の顔を見るくらいで安心できたらなら本当に良かったと思う。
「実は……父さん、今は再婚して新しい人と暮らしているんだ」
父さんは左手を隠していた手を退けると僕が昔見ていた指輪と同じ場所に別の指輪がついていた。
「少し前に新しく息子も産まれたんだ。今は三人で暮らしてる」
「僕……弟ができてたんだ」
「報告できずにすまなかった」
父さんは僕に頭を下げた。
「父さん!?」
でも下げている頭を戻してよ、なんて言えなかった。
(本当にごめんな)
父さんの今の謝罪の気持ちは決して口だけのものではなかったから。
僕は心が読めるだけで記憶まで読めるわけじゃないけど、きっと父さんはこのことをずっと負い目に感じていたんだろうなってことはよく分かった。
だから僕が呼んだ時に無理をしてでもすぐに来てくれたんだ。
父さんは本音で、本当のことを話してくれてたんだ。
「実は……父さんからずっと連絡が来ないことってことは僕は父さんに嫌われてるのかもしれないって今まで思ってたんだ」
だからこそ、僕も父さんに本音で語りたいと思った。
僕と真剣に向き合ってくれている父さんに、自分を押し殺した都合のいい返事ばかりで逃げたくないなんてない。
「でも、父さんと母さんが離婚したのは僕が二人の気持ちなんて考えずにわがままばかり言っていたせいだから、父さんに会いたくても我慢しなきゃってずっと思ってた」
(……っ!)
父さんは今にも涙が流れそうな目で僕を抱きしめた。
「嫌ってなんているものか!俺はずっと蒼唯のことを愛してた。離婚もお前が原因なんかじゃない。蒼唯が一人で抱え込むことなんて何も無いんだ!」
(こんなに追い込んでしまったなんて……本当にごめんな)
「こんな不甲斐ないお父さんを許してほしい……。こんなことになるのなら、蒼唯に俺からすぐに連絡を取れば良かった。蒼唯はお母さんについて行ったから、てっきり俺のことは嫌いだと思っていたんだ。そんな俺が蒼唯を置いて新しい場所で家族を作っているなんて知ったらきっと裏切ったと思われてしまうと、そんな自分勝手な思い込みばかりをしてしまっていた……」
僕の肩に回された父さんの腕は昔のようにとても大きく感じた。
僕は思わず父さんのスーツを裾を引っ張った。
「離婚したのだって父さんと母さんが合わなかっただけなんだ。決して蒼唯が原因じゃない!蒼唯は俺たちを最後の最後まで繋ぎ止めてくれていた二人の宝だったんだ」
父さんは今にも消え入りそうな声で呟くように言った。
「……それを聞いて安心したよ」
驚いたように顔を上げた父さんに僕は慣れない笑顔でニコッと笑ってみせた。
「またこうやって会いに来てもいい?」
「あぁ!もちろんだ」
僕はハンカチを父さんに手渡すと、父さんは情けないなと言いながらそれを受け取り涙を拭いた。
その後父さんに奢りで食べたオムライスは昔と全く変わらない味がした。
「今は母さんと二人で暮らしてる。料理が上達しちゃったよ」
「いつかお父さんも食べたいな」
(成長したなぁ)
「今は三人の友達と一緒に学校を楽しく過ごしてる」
「そうか。友達は大切にするんだぞ」
(友達と楽しそうでなによりだ)
そんな感じで、父さんが心から僕のことを思っていてくれていたことが話をするたびに分かっていった。
「父さんは今は何してるの?」
今まで穏やかな顔で話を聞いてくれていた父さんの顔が途端に曇った。
「仕事は離婚する前とは変わらないところに勤めてるのだが……」
父さんの話も徐々に歯切れが悪くなっていく。
(この子にそんなことを話してもいいものだろうか。傷つくかもしれない)
僕は父さんがさっき、咄嗟に隠した左手を見た。
確かにその内容は僕にとって酷なことだけど、なにより父さんが僕のこと心配してくれていることが嬉しかった。
「話してみてよ。大丈夫だから」
(……この子はこんな顔をすることができたのか。本当に優しい子だ)
父さんが僕の顔を見るくらいで安心できたらなら本当に良かったと思う。
「実は……父さん、今は再婚して新しい人と暮らしているんだ」
父さんは左手を隠していた手を退けると僕が昔見ていた指輪と同じ場所に別の指輪がついていた。
「少し前に新しく息子も産まれたんだ。今は三人で暮らしてる」
「僕……弟ができてたんだ」
「報告できずにすまなかった」
父さんは僕に頭を下げた。
「父さん!?」
でも下げている頭を戻してよ、なんて言えなかった。
(本当にごめんな)
父さんの今の謝罪の気持ちは決して口だけのものではなかったから。
僕は心が読めるだけで記憶まで読めるわけじゃないけど、きっと父さんはこのことをずっと負い目に感じていたんだろうなってことはよく分かった。
だから僕が呼んだ時に無理をしてでもすぐに来てくれたんだ。
父さんは本音で、本当のことを話してくれてたんだ。
「実は……父さんからずっと連絡が来ないことってことは僕は父さんに嫌われてるのかもしれないって今まで思ってたんだ」
だからこそ、僕も父さんに本音で語りたいと思った。
僕と真剣に向き合ってくれている父さんに、自分を押し殺した都合のいい返事ばかりで逃げたくないなんてない。
「でも、父さんと母さんが離婚したのは僕が二人の気持ちなんて考えずにわがままばかり言っていたせいだから、父さんに会いたくても我慢しなきゃってずっと思ってた」
(……っ!)
父さんは今にも涙が流れそうな目で僕を抱きしめた。
「嫌ってなんているものか!俺はずっと蒼唯のことを愛してた。離婚もお前が原因なんかじゃない。蒼唯が一人で抱え込むことなんて何も無いんだ!」
(こんなに追い込んでしまったなんて……本当にごめんな)
「こんな不甲斐ないお父さんを許してほしい……。こんなことになるのなら、蒼唯に俺からすぐに連絡を取れば良かった。蒼唯はお母さんについて行ったから、てっきり俺のことは嫌いだと思っていたんだ。そんな俺が蒼唯を置いて新しい場所で家族を作っているなんて知ったらきっと裏切ったと思われてしまうと、そんな自分勝手な思い込みばかりをしてしまっていた……」
僕の肩に回された父さんの腕は昔のようにとても大きく感じた。
僕は思わず父さんのスーツを裾を引っ張った。
「離婚したのだって父さんと母さんが合わなかっただけなんだ。決して蒼唯が原因じゃない!蒼唯は俺たちを最後の最後まで繋ぎ止めてくれていた二人の宝だったんだ」
父さんは今にも消え入りそうな声で呟くように言った。
「……それを聞いて安心したよ」
驚いたように顔を上げた父さんに僕は慣れない笑顔でニコッと笑ってみせた。
「またこうやって会いに来てもいい?」
「あぁ!もちろんだ」
僕はハンカチを父さんに手渡すと、父さんは情けないなと言いながらそれを受け取り涙を拭いた。
その後父さんに奢りで食べたオムライスは昔と全く変わらない味がした。