「やっぱり居た!乃々だ……」
乃々さんは学校から一番近くの海の防波堤に一人座っていた。
潮風が僕らの髪を撫で、光は雲に隠れ海はまるで灰色の世界のようだった。
乃々さんはそんな灰色の海をじっと見つめている。建物の塀の影に隠れて見ている僕らにはまだ気づいていないようだ。
「蒼唯はまだしも、大輝はよく分かったね」
「あいつ、落ち込むことがあるといつもここに来るんだ。俺を励ますときにもよくここに連れてきてくれた」
大輝はきっと何度もここで乃々さんに話を聞いて、助けて貰ったんだろうな。
乃々さんを真っ直ぐ見つめている目を見れば二人が並んで話している姿が想像できてくる。
「おい乃々!」
落ち着いていたのも束の間。そう大輝が声をかけようとしたのを見てに慌てて僕と紫音で慌てて口を塞ぐ。
「馬鹿!今不用意に寄って行ったらさっきと同じことになるでしょ!」
「お……おう。そうだな、悪い冷静さを失ってた」
良かった。大輝も落ち着いてくれたみたいだ。
でも、乃々さんの状況は全然良くない。むしろ悪化している。
乃々さんは今、足を海側へ下ろして座っている。言ってしまえば少しでも前にズレれば海に落ちてしまう場所とも言える。
どんなことが彼女の起爆剤となるか分からない。
慎重にいかないと。
「でも、だからといってどうする?」
乃々さんに見つからないように少し離れた建物の影で小さな声で話す。
「情けないけど、俺は今乃々の隣に行っても何もできる気がしない……」
大輝はまだ、乃々さんがこうなったのは自分のせいだと自責の念にかられている。
今行っても乃々さんをどうこうできそうにないのは確かに同意だ。
だけど……。
「なら私が!」
「それはだけはダメだ」
「蒼唯?!なんで?私は乃々ちゃんとは中学の頃からずっと一緒に居るんだよ?!今行かなくてどうするの!」
でも、紫音だけは行かせちゃダメなんだ。
今の乃々さんが一番会ってはいけない人は紫音。君なんだ。
「ねぇ!蒼唯なん……で……」
「ごめん。言えない」
多分僕の酷い顔を見て紫音は察してくれたのだろう。
紫音にそんな顔をさせたかったわけじゃなかったんだけどなぁ。
「お願いだ。紫音。君だけは行ってはいけない」
「……分かった」
紫音は渋々ではあるが引き下がってくれた。
「じゃあ、どうするんだよ?俺も紫音も無理って」
「今から乃々ちゃんと仲がいい子呼び出してみる?」
「今授業中だぞ?!」
「友達のためなら来てくれるでしょ!」
「それまではどうするんだよ!その間に乃々が飛び込みでもしたら……」
二人の言い合いが徐々にエスカレートして、声も大きくなっている。
二人だって余裕が無いんだ。
覚悟を決めないと。
僕は大きく息を吸って深呼吸をした。
「僕が行くよ」
そう言うと、僕らの周りの空気が凪いだように静まった。
僕だって今まで、こんな僕にも優しくしてくれた乃々さんを失いたくなんてない。
人のことが嫌いだと散々言っておきながら、僕は大輝と紫音。それから乃々さん。皆のおかげで人と居て楽しいと思えるようになったんだ。
僕はまだそのお礼も言えていない。
「蒼唯……お前……」
「大丈夫。僕は心が読めるから最悪何かあっても行動を起こす前に何とかすれば……」
言い切る前に大輝は僕を思い切り抱きしめた。
男の抱擁というやつだ。
「ありがとう……お前なら大丈夫だ」
涙を流す大輝に困惑して紫音に助けの目線を送る。
「そんな建前なんて言わなくてもいいんだよ。友達が困ってるから助けたいんでしょ?」
僕は唇を噛んだ。
この後に及んで僕はまだ怖がってたみたいだ。
心が読めるようになって、人と深く関わるのが怖くなった。
紫音と、皆と出会うまで僕は人を避けて、自分を隠して生きてきた。
友達を大切に思うことってこういうことなんだってことを今になってようやく実感できた。
「うん。行ってきます」
「乃々ちゃんのこと、頼んだよ」
大輝と紫音に背を押されて僕は乃々さんの方へと一歩足を踏み出した。
乃々さんは学校から一番近くの海の防波堤に一人座っていた。
潮風が僕らの髪を撫で、光は雲に隠れ海はまるで灰色の世界のようだった。
乃々さんはそんな灰色の海をじっと見つめている。建物の塀の影に隠れて見ている僕らにはまだ気づいていないようだ。
「蒼唯はまだしも、大輝はよく分かったね」
「あいつ、落ち込むことがあるといつもここに来るんだ。俺を励ますときにもよくここに連れてきてくれた」
大輝はきっと何度もここで乃々さんに話を聞いて、助けて貰ったんだろうな。
乃々さんを真っ直ぐ見つめている目を見れば二人が並んで話している姿が想像できてくる。
「おい乃々!」
落ち着いていたのも束の間。そう大輝が声をかけようとしたのを見てに慌てて僕と紫音で慌てて口を塞ぐ。
「馬鹿!今不用意に寄って行ったらさっきと同じことになるでしょ!」
「お……おう。そうだな、悪い冷静さを失ってた」
良かった。大輝も落ち着いてくれたみたいだ。
でも、乃々さんの状況は全然良くない。むしろ悪化している。
乃々さんは今、足を海側へ下ろして座っている。言ってしまえば少しでも前にズレれば海に落ちてしまう場所とも言える。
どんなことが彼女の起爆剤となるか分からない。
慎重にいかないと。
「でも、だからといってどうする?」
乃々さんに見つからないように少し離れた建物の影で小さな声で話す。
「情けないけど、俺は今乃々の隣に行っても何もできる気がしない……」
大輝はまだ、乃々さんがこうなったのは自分のせいだと自責の念にかられている。
今行っても乃々さんをどうこうできそうにないのは確かに同意だ。
だけど……。
「なら私が!」
「それはだけはダメだ」
「蒼唯?!なんで?私は乃々ちゃんとは中学の頃からずっと一緒に居るんだよ?!今行かなくてどうするの!」
でも、紫音だけは行かせちゃダメなんだ。
今の乃々さんが一番会ってはいけない人は紫音。君なんだ。
「ねぇ!蒼唯なん……で……」
「ごめん。言えない」
多分僕の酷い顔を見て紫音は察してくれたのだろう。
紫音にそんな顔をさせたかったわけじゃなかったんだけどなぁ。
「お願いだ。紫音。君だけは行ってはいけない」
「……分かった」
紫音は渋々ではあるが引き下がってくれた。
「じゃあ、どうするんだよ?俺も紫音も無理って」
「今から乃々ちゃんと仲がいい子呼び出してみる?」
「今授業中だぞ?!」
「友達のためなら来てくれるでしょ!」
「それまではどうするんだよ!その間に乃々が飛び込みでもしたら……」
二人の言い合いが徐々にエスカレートして、声も大きくなっている。
二人だって余裕が無いんだ。
覚悟を決めないと。
僕は大きく息を吸って深呼吸をした。
「僕が行くよ」
そう言うと、僕らの周りの空気が凪いだように静まった。
僕だって今まで、こんな僕にも優しくしてくれた乃々さんを失いたくなんてない。
人のことが嫌いだと散々言っておきながら、僕は大輝と紫音。それから乃々さん。皆のおかげで人と居て楽しいと思えるようになったんだ。
僕はまだそのお礼も言えていない。
「蒼唯……お前……」
「大丈夫。僕は心が読めるから最悪何かあっても行動を起こす前に何とかすれば……」
言い切る前に大輝は僕を思い切り抱きしめた。
男の抱擁というやつだ。
「ありがとう……お前なら大丈夫だ」
涙を流す大輝に困惑して紫音に助けの目線を送る。
「そんな建前なんて言わなくてもいいんだよ。友達が困ってるから助けたいんでしょ?」
僕は唇を噛んだ。
この後に及んで僕はまだ怖がってたみたいだ。
心が読めるようになって、人と深く関わるのが怖くなった。
紫音と、皆と出会うまで僕は人を避けて、自分を隠して生きてきた。
友達を大切に思うことってこういうことなんだってことを今になってようやく実感できた。
「うん。行ってきます」
「乃々ちゃんのこと、頼んだよ」
大輝と紫音に背を押されて僕は乃々さんの方へと一歩足を踏み出した。