「――そっか。蒼唯と大輝君の間にそんなことがあったんだね」
 大輝との相談会の後、紫音からメッセージが来て、僕らは何故か庭園のライトアップショーに来ていた。
 紫音がなにか僕に言ってくる時はいつもこうだ。
 突拍子のないことを突然言ってくる。
 僕の方こそこの一年間で慣れつつあるけど困ったものだ。
 「いつもこんな急で紫音の親は心配しないの?」と聞いたことあるけど「うちは放任主義だから」と言われてしまいそれが直ることはなかった。
 今回は僕としても大輝のことが報告できるし結果オーライといったところだけど。
 僕らは大輝と別れた後の夕方に待ち合わせして、今はコースを巡っているところだ。
 「大輝は明日乃々さんに告白するって」
 「そっか!大輝もついに勇気を出したんだね」
 (良かった……)
 紫音の口からの声と重ねて心の声もポツリと聞こえてくる。
 この一年間、紫音に『お手伝い』だと色々な所へこき使われたけど、ここ最近で紫音の心の声がよく聞こえるようになった。
 相変わらず心の声を隠せている理由は謎のままだけど。
 「一年前にも聞いたし改めて聞くけど、もし大輝が乃々さんに振られたらどうするの?」
 正直僕はこの告白をあまり嬉々とはしてはいなかった。
 お手伝いから開放されるという意味では嬉しいことには変わりない。
 でも乃々さんの好きな人が僕だけにはわかってる。
 分かっているからこそ大輝を無責任に応援するだけなのはどうなんだと心苦しかった。
 もちろん、乃々さんが大輝を受け入れることになる選択肢もあるにはあるのだけれど――。
 「答えは変わらないよ。私が願っているのはあの二人の幸せ。二人が心の底をさらけ出して今よりもいい関係になってくれたら私はそれが一番嬉しい。だから私も二人ときっと前と変わらない態度で接すると思う」
 「そっか」
 紫音はあの二人を大切に想ってる。上っ面だけじゃなくて心から想ってるからこそ出る答えだ。
 「それに、蒼唯もあんまり縁起でもないこと言わないの!蒼唯だって大輝のこと応援してるんでしょ?」
 「そうだけど……」
 確かにマイナスなことばかり言っていても大輝に失礼かもしれない。
 紫音を見習って結果がどうというより応援するのに徹しよう。
 大輝の乃々さんが好きという気持ちは本物だと僕は知っているのだから。
 「気持ちは切り替えれたみたいだね。なら、せっかく来たんだから庭園のライトアップを楽しもうよ」
 紫音は目の前に広がる紫や青や緑のライトやほんのりと暖かく光る灯篭を指さして笑った。
 「確かに。楽しまないと勿体ないかもね」
 来たのが平日の夜のおかげで人も少なくてうるさくないし僕の方もある程度快適に過ごせているし、心置きなく楽しむには調度良い。
 「ほら、あとコース半分位あるんだから早く行かないと時間切れになるよ!私まだ行きたいところ沢山あるんだから!」
 紫音は誰も居ないことをいいことに僕を置いて走り出した。
 「ちょっと!暗くて見えなくなるんだけど?!」
 「そうなったら心の声で場所教えてあげるって!」
 「そもそもはぐれないでよ!」
 「あははっ!確かに」
 確かに、なんて言う割に全然止まらないし、本当に確かにって思ってるのか?
 「蒼唯!早くこっちも行こうよ」
 紫音は先に分かれ道に着いて足踏みして僕を呼んだ。
 一応、待ってくれる気はあるらしい。
 「分かったから……ん?紫音さっきそっちの方行ったばっかりでしょ?」
 「え?」
 やっと追いついた僕の言葉でさっきまで笑顔だった紫音の口角がすっと下がった。
 「どうしたの紫音?」
 「……ううん。なんでもない。この辺の道複雑だからどこ行ったか分からなくなるよね!」
 「まぁ、確かに?」
 確かに紫音の言っていることは分からなくもない。
 見て回る順路が決められているわけでもなければ案内板もないし、手元に用意された地図も周りが暗闇と展示されたライトの光のみの状況ではあまり意味をなしていない。
 でも、その道は本当についさっき通った道だぞ?
 「まぁ、いいじゃん。もう一回行こうよ!平日で人もいないしさ」
 「いいけど……わっ!紫音急に手引っ張らないで!」
 「あはは!」
 紫音はいつもの笑顔に戻ってるけど、さっきまで少しだけだけど聞こえてた心の声はパタリと聞こえ無くなった。
 それからは普段の紫音と庭園のライトアップを楽しみ、補導される時間の前に二人とも帰宅した。
 夜だから送っていこうかと紫音に伝えたけどそれもやんわりと断られてそれぞれで帰路に着いた。
 『明日、大輝の告白が成功するのを祈ってから寝るよ!』
 帰りのバスの中で紫音からそんなメッセージが届き、僕も『もちろん』と返し、既読が付くと僕の左手のブレスレットが鳴った。
 寝る時も「明日の大輝の勇気が少しでも報われますように」と思いながら寝た。
 次の日、あんなことになるとも考えずに。