そして一年の月日が経ち、僕らは高校生二年目の秋を迎えた。
 「おはよう蒼唯!」
 「大輝おはよう。今日も時間ギリギリだね」
 「朝練があるから仕方ない!でも今日は早い方だろ?」
 「確かに」
 「男子だけで楽しそうにしてんじゃん。私も混ぜてよ」
 「乃々!おはよう!」
 「おはようございます。乃々さんも今来たところ?」
 「私はもうちょっと早く着いてたよ。そこのでかいのと違ってね」
 「遅れてないからセーフだろ?!」
 結局僕は大輝と乃々さんの二人ともとなんだかんだ話せる程度の仲にはなることができた。
 おおよそ大輝と乃々さんの二人と仲良くなるという最初のミッションを成功さしたと言っても過言では無いだろう。
 そして二年生になった僕らは奇跡と言うべきか、神のイタズラと言うべきか、僕と大輝と紫音と乃々さんの四人は同じクラスになった。
 早く『お手伝い』を終わらして自分の身を守るため、紫音の言いつけ通り僕は二人とはある程度の仲も深めた。
 そもそも、二人は素がいい人達だったから僕から話しかけにいく努力を少しすればあとは紫音がフォローしてくれたし、すぐに仲良くなることができた。
 僕に友達ができるなんてあの事故の日以前の僕からしたら考えられない。
 これは僕の成長と言うべきなのか、紫音にいいように振り回された結果と見るべきなのか……。
 紫音から言われた例の『お手伝い』、『大輝と乃々さんの恋を叶える』お願いは未だ叶っていない。
 そもそも、恋愛なんてしたのは心を読む力に目覚める前の小学生の初恋の時だけだ。
 そんな僕が恋愛を成就させるなんて無理なことだ。
 もちろん、自分が大切なので叶える努力はしているけども。
 「いい加減蒼唯も私のこと乃々って呼び捨てにしてくれてもいいじゃん!紫音には呼び捨てな上にタメ口なのに」
 「今のところは勘弁してください……」
 (えぇ……私だけ仲間外れみたいじゃん)
 だって、紫音にはそうしないと「心が読めることバラすからね」って脅されてるし……。
 乃々さんのようにキラキラとした青春を謳歌しているような女子高生となんて今まで話したことないし、僕からしたら遠く向こうの存在だったので乃々さんには未だに敬語が抜けない。
 さん付けとはいえ、頑張って下の名前で呼んでるので妥協していただきたい。
 だから、決して仲間外れにしたいわけじゃないから心の中で不貞腐れないで欲しい。心苦しくなる。
 「にしても紫音まだ来てないの?」
 「確かに今日は遅いな。休みか?」
 「連絡入れてみますか?」
 僕が鞄からスマホを取り出そうとした時、教室の後ろの扉が勢いよく開いた。
 「セーフ!危ない!間に合った!」
 そこには汗で額が湿った紫音が。
 どうやらここまで走って来たようだ。二年の教室は四階だっていうのに。
 そんな紫音に僕らが声を変える前に他の女子二人が話に行ってしまい、乃々さんは僕らに一言言ってそこへ混ざりに行った。
 「みんなこれ見て!この映画良さそうじゃない?!」
 乃々さんの方を見送ると紫音のよく通る声が耳に入った。
 なんだか盗み聞きしているようで悪いかな?
 心の声は僕の意思に関係なく聞こえてくるけど実際の声のプライバシー位は守った方がいいだろう。
 今は大輝と話していよう。
 そう思い大輝に話しかけようとした時に紫音と一緒に居たクラスメイトが少し大きな声で気になることを言った。
 「ちょっと紫音!その映画はつい先月みんなで見たじゃん!」
 「……何度でも見たいってことだよ!あの映画良かったからさ!」
 「えぇ〜!?終わった時紫音、期待してたのに残念だったって言ってなかったっけ?」
 紫音の周りの席でどっと笑いが起き、その大声に僕は思わずその会話を聞き入った。
 「あれ?そうだったっけ?多分何かの映画と混ざってるかも!」
 (寝坊したせいだ……)
 あはは、と笑う紫音の心から久しぶりに声が聞こえた気がした。
 寝坊して頭がパニックになっているとかだろうか?
 授業が始まる時間までにはついているからそんなに慌てなくてもいいのに。
 紫音のその言葉の意味は僕にはよく分からなかったし、僕の心を読む力は心の声が頭に勝手に流れてくる都合上、複数の声が被ったり、聞き流し状態になることが多いから僕自身が聞き間違えることも多い。
 だから、その時も僕の聞き間違えとして特に気にすることは無かった。
 その代わりに、と僕は大輝の方を見る。
 大輝は紫音と乃々さんがいる方をじっと見ていて、僕が見ているのに気づくと何か覚悟を決めたように僕に言った。
 「蒼唯に相談したいことがあるんだ。今日の放課後空いてるか?」