「その代わり、ボクの頼みも聞いてくれませんか?」

 僕は男子生徒の顔を見る。
 さっきまで笑っていたのに、急に真面目な表情をしている。

「ボクがなんで死んだのか、なんでここにいるのか、調べてほしいんです」

 その真剣な声が、僕の耳を通り抜け、心の奥に響いた。

「お願いします! こんなこと頼めるの、僕のことが見えるあなたしかいないんです!」

 両手をパチンと合わせて目を閉じる、自称幽霊。そんな姿を見ながら、僕はつぶやく。

「なんで死んだのか……わからないの?」

 両手を下ろした男子生徒が、しょぼんとした顔でうつむく。

「はい……わかりません」
「なんでわからないの?」
「そんなの知りませんよ!」

 顔を上げた男子生徒が叫ぶ。

「でもたぶん、ボクがここにいる理由が、なにかあると思うんです。それがわかれば、ボクも成仏できるんじゃないでしょうか? 漫画とか小説だと、そういうもんですよね? フツー」
「まぁ、だいたいそんな感じだね……」
「だから、お願いします! ボクもいろいろ調べてみたんですけど、わからなくて困ってるんです」
「成仏って……そんなにしたいの?」

 僕の声に、男子生徒がきょとんとした顔をする。

「だって成仏したらどうなっちゃうの? 天国なんて本当にあるかどうかわかんないし、消えちゃうんじゃないの? それよりここにいたほうが……」
「ふう……これだから生きてる人間は」

 やれやれというようにため息をつかれて、なんだか腹が立った。

「なんだよ、それ!」
「生きてる人間には、幽霊の気持ちなんか、なんにもわかってないって言ってるんです」
「わ、わかるわけないし! 幽霊になんて、なったことないんだから!」

 僕の言葉に一瞬目を丸くした男子生徒が、あははっと声を上げて笑う。

「たしかに。それもそうですね」
「……幽霊の気持ちって、どんな気持ちなの?」

 笑うのをやめた男子生徒が、ふっと空を見上げてつぶやく。