「俺、来年また挑戦することにしたから」

 空に視線を動かし、聖亜が言う。
 僕は「うん」とだけつぶやき、同じように空を見上げた。
 そして心の中で思う。
 今回は無理だったけど、きっと聖亜ならできる。
 いつか誰かを助けることが――。

「で、いつ行くんだよ」
「え?」
「東京」

 僕の進学する大学は東京で、僕は家を出て、一人暮らしをすることになっていたのだ。

「ああ、うん……明日」
「あっそ」

 聖亜が短く言う。
 僕の胸が、なぜだかぎゅうっと痛くなる。
 なんだろう、この気持ち。
 住みなれた町を出て、たったひとりで暮らすことにビビッているのか?
 大学生になって、キラキラした都会の人たちとなじめるか不安になっているのか?
 いや、そうじゃない。それもあるけど、それだけじゃないんだ。

「あの、えっと、聖亜?」
「なんだよ」

 僕を見ようとしない、聖亜の横顔につぶやく。

「聖亜は……僕がいなくなって寂しい?」
「は?」
「えと、ほら、僕たち保育園のころから一緒だし、なんとなくそばにいるのが当たり前だったし、それに……」

 一年前、聖亜に言われた言葉を思い出し、顔が熱くなる。

『俺が好きなのは……ユズ、お前なんだよ』

 なんでなんだ。聖亜のことなんか大嫌いだったはずなのに――あの日からずっと、聖亜のことが気になって仕方ないんだ。
 それなのに聖亜は、あれ以来、僕に関わってこない。
 意地悪することはなくなったけど、今度はまったく絡まなくなった。
 同じクラスだというのに、ほとんどしゃべらなかったし、母さんの唐揚げを持っていっても、軽くお礼を言うだけでドアを閉められてしまう。
 それが避けられているように感じて、なんていうか……。

「寂しいのはお前のほうだろ?」
「え!?」

 思わず隣を見たら、聖亜も僕を見ていて、にやっと笑った。

「寂しいなら寂しいって言えよ」
「ぼ、僕はべつに聖亜なんかいなくたって……」

 言いかけて息を呑んだ。
 聖亜がまっすぐ僕を見ている。
 久しぶりだ。こんなふうに目が合ったのは。
 なぜか胸の鼓動が高まって、体がじんわりとほてってくる。
 そうしたらつい、言ってしまったんだ。

「いや……寂しいよ」

 最初のひと言がこぼれたら、もう止まらなくなった。