「気持ち悪くねーの?」
「え?」

 聖亜が僕の手を振り払い、そっぽを向く。

「あいつらが言ってたことだよ。俺が男しか興味ないとか、男が好きだとか……」
「ああ、あれ? 全然気にしてないよ。あんなでたらめ言うやつらのことなんか」
「は!?」

 怒ったような顔で、聖亜が僕を見る。

「でたらめ?」
「うん、でたらめでしょ。あいつらいい加減なことばっか言って……」
「でたらめじゃねぇ!」

 急に聖亜が大声を上げるから、僕はビビった。

「誰がでたらめって言った! あいつらが言ってたことは、全部ガチだ!」
「え?」
「俺が好きなのは男なんだよ!」

 そこで一旦息を吐いてから、聖亜は僕の目をまっすぐ見て告げた。

「俺が好きなのは……ユズ、お前なんだよ」

 僕はぽかんと口を開けたまま、固まってしまった。
 聖亜は口元を押さえて目をそらす。
 その頬が、みるみる赤くなっていく。

「え、えっ? ええっ!?」

 思わず声を漏らしてしまったら、聖亜が怒った声で言った。

「ほらな! キモいだろ? キモいと思っただろ、こんなやつ!」
「い、いや……」
「俺はずっとお前のこと、ひとり占めしたかったんだよ! だからお前が他のやつと笑ってるのが許せなかった。どうにかして俺を見てほしくて……ひどいことすれば、俺のこと忘れられなくなるんじゃないかって思って……あー、もう! バカすぎる、俺!」

 聖亜が頭を抱えて、亀のように体を丸める。

「やっぱ俺なんか、死んだほうがよかったんだ……」
「せ、聖亜……」
「うるさい! あっち行け! お前なんか嫌いだ!」

 思いっきり怒鳴ったあと、聖亜が振り絞るように声を出す。

「くそっ……死にてぇ……」

 僕は聖亜の背中を見下ろして、ぷっと小さく噴き出した。
 ああ、もうほんとに、しょうがないやつだなぁ……僕の、死にたがりな幼なじみは。
 でも僕だけにしか見せない情けない姿が、すごく愛おしいと思えたりもするんだ。