「あの、これって、遺書ですか?」

 ハッと振り返ると、男子生徒が封筒を手に取り、中の紙を取り出していた。
 僕は急いで駆け寄る。リュックにしまい忘れていたんだ。

「か、返せよ!」
「こいつらが、あなたをいじめていたわけですね?」

 男子生徒の手から封筒と紙をひったくる。
 そんな僕に彼は言う。

「ボクが仕返ししてやってもいいですけど? そいつらに」
「え……」

 つい声をこぼしてしまった僕に、男子生徒がアイドルみたいな完璧笑顔で答える。

「ボク幽霊なんで、なんでもできますよ。ほら、さっきだってあいつらビビってたでしょ? それはボクが、あいつらには見えてないからです。あいつらにとっては、リュックが勝手に浮かんで、自分たちに向かって飛んできたと思ったんでしょう」

 僕の前で男子生徒が得意げな表情をする。

「だからボクが、そこに名前が書いてあるやつら全員ビビらせて、あなたに近づけないようにしてあげますよ。ボク、幽霊が見えない人には触れられないけど、物には触れられるんで。いままでもそんなふうに、ポルターガイストごっこして遊んでたんです」

 そういえば、美術室の石膏像が勝手に動いて倒れたとか、音楽室のピアノが勝手に音を立てたとか、聞いたことあるけど。
 でもそんなの、学校の七不思議とかそういうたぐいの噂なんだと思っていた。

「もしかして……美術室や音楽室で物を動かした?」
「あ、はい! それボクのしわざです。去年の春、気がついたらここにいて。それから毎日暇すぎて、いたずらくらいしかすることなかったんで。まぁいじめっ子の仕返しは、ボクに任せてくださいよ」

 男子生徒はふふふっと笑ったあと、僕の腕をぐっとつかんだ。
 ひんやりとした感触。でもちゃんとつかまれているってわかる。