校舎を出た僕は、ゆっくりと歩いて家に向かった。
 ついこの間まで冷たく沈んでいた町の景色が、優しく色づいてきたように思える。
 春が訪れたからだろうか。
 それとも僕の気持ちが、前向きに変化したからだろうか。
 深く息を吸い込んだ僕の目に、公園が見えた。

『ボクの代わりに、ユズが行ってくださいね? あの公園に』

 そういえば、羽流と約束したんだっけ。
 僕は行き先を変え、子どもたちが歓声を上げている公園の中に入る。

 あたたかい日差しに包まれた公園は、桜が咲きはじめていた。
 滑り台や、ブランコで遊んでいる子どもたち。
 ジャングルジムを見上げて、また少し、昔のことを思い出す。

「あっ」

 バスケットゴールのそばまで来たとき、僕は声を上げてしまった。
 近くのベンチに、聖亜がひとりで座っていたからだ。

「聖亜……」

 おそるおそる近づくと、聖亜が前を見たまま不機嫌そうにつぶやいた。

「行ったのか? あいつ」
「……うん」
「そっか」

 黙り込んだ聖亜の隣に僕は座った。少しの間隔をあけて。
 目の前では子どもたちが楽しそうに、ボールを弾ませている。
 僕たちの上では咲きはじめたばかりの桜の花が、春風に揺れていた。

「僕は……」

 しばらくそんな光景を眺めたあと、口を開いた。

「聖亜のこと、見捨てたりしないから」

 聖亜は黙って前を見ている。

「いつだってずっと、聖亜の味方だから」

 僕は隣を向き、聖亜に体を近づけると、その手をぎゅっと握った。
 一瞬聖亜が、驚いたような表情をする。

「だからなんでも言って! 僕にできることなら、力になるから!」
「ユズ、お前……」

 ぼそっと聖亜がつぶやいた。