「やったぁ!」
「入った!」

 つい声を上げてしまったら、聖亜が驚いたように振り向いた。
 そしてすぐに、いつもの不機嫌顔になる。

「んだよ、いたのかよ」

 そう言って「ちっ」と舌打ちする聖亜は、普段と変わらない聖亜で、なんだかうれしくなる。

「すごい! やっぱり聖亜はカッコいいよ!」

 僕の隣でハルが叫んだ。
 聖亜の耳がほんのりと赤く染まる。
 聞こえているんだ。聖亜には、ハルの声が。

「べつにこんなの……誰でもできるだろ?」
「できないよ! 少なくともボクとユズには」

 ハルがそう言って、僕に同意を求める。

「うん、そうだね。僕たちには無理だ。聖亜はすごいよ」

 うなずいた僕は、ハルに向かって言った。

「だからもう、聖亜は大丈夫だよ。またバスケ部に入って、頑張るって言ってるし」
「はぁ? 俺、そんなのひと言も言ってねーぞ! 今日はお前に頼まれて、ここに来ただけで……」

 怒鳴った聖亜に駆け寄って、ハルがその手を握った。

「バスケやってよ、聖亜。ボクのために好きなこと辞めるなんて、ダメだよ」

 聖亜の顔色が変わる。ハルに握られた手を、じっと見下ろしている。
 きっと感じているんだ。ハルの、冷たいけれどあたたかいぬくもりを。

「約束してくれたら、ボクはちゃんと成仏できる」

 聖亜が黙ってうつむいた。

「ね? 約束して、聖亜。これからは自分のやりたいことをやって、自分を大事にして、ボクの分まで長生きするって」

 聖亜の肩が震えている。ぽろっとあふれた涙が、握り合った手の上に零れ落ちる。

「わかったよ、羽流(はる)

 顔を上げた聖亜が、はっきりと言った。

「これからは、自分のやりたいことをやる」

 羽流がうれしそうに微笑んで、聖亜に告げる。

「さよなら。お兄ちゃん」

 羽流の手が聖亜から離れた。聖亜がすとんっとその場に座り込む。

「聖亜……」
「行けよ」

 僕に背中を向けたまま、聖亜が言った。

「行けよ、ふたりとも。さっさと行け!」

 羽流がにこっと笑って、体育館を出ていく。
 僕は聖亜の震える背中を見つめたあと、羽流のあとを追って外へ出た。