体育館ではバスケ部が練習をしていた。
 ボールを弾ませる音や、部員たちのシューズの音が体育館に響いている。
 僕は聖亜から手を離し、ハルを捜した。
 今日は体育館に来る予定だったから、どこかにいるはずなんだけど……。

「あ……」

 僕は壁に寄りかかって座り、バスケ部の練習を見ているハルを見つけた。
 だけどハルに声をかけることができない。
 だってハルは――バスケをする部員たちを見ながら、涙をこぼしていたから。

 ハル……どうして?

 ハッと聖亜のことを思い出し、隣を見る。

「え……」

 そこで僕はさらに驚いた。
 ハルのいる壁のほうを見ながら、聖亜も涙を流していたから。

「せ、聖亜?」

 聖亜がビクッと肩を震わせ、僕を見る。

「どうしたの?」
「え?」
「涙……出てる」
「は?」

 声を上げた聖亜が、ごしごしと目元をこする。

「えっ、なに? なんで俺、泣いてんだ?」
「ハルのことが……見えたの?」
「見えるわけねーだろ? どこにいるんだよ、あいつ!」
「じゃあ、なんで泣いてるんだよ?」
「わっかんねーよ! 勝手に涙が出てきたんだから! くそっ!」

 僕は首をかしげる。
 聖亜の涙は、ハルの涙と関係ないんだろうか。
 聖亜は昔、バスケをやっていたから、そのころの嫌な思い出でも思い出したとか?
 そういえば聖亜がなんでバスケを辞めたのか、僕は理由を知らない。
 いやでも、聖亜はバスケなんて見ていなかった。
 僕が教えていないのに、まっすぐハルのいる方向を見て、涙をこぼしていたんだ。

「やっぱ俺、帰るわ」
「えっ」
「なんか……気分悪い」

 聖亜はそれだけ言うと、体育館から出ていってしまう。

「聖亜……」

 ピーッとホイッスルが鳴って、部員たちが集合した。
 これから練習試合がはじまるらしい。
 僕はこそこそと体育館の端を通って、ハルの隣に座った。