「嘘つけ! いま隣見てたじゃねーか」
「そ、それは……」
「いるんだろ! ハル! ここに!」

 聖亜が怒鳴りながら、手をぶんぶん振り回している。
 渡り廊下を通る女子生徒たちが、逃げるように走り去っていく。

「ちょっ、聖亜! やめなよ!」
「うるせー! 出てこい! 隠れてないで姿を見せろ! ハル!」

 止めようとする僕を振り切り、聖亜が暴れている。
 聖亜が乱暴で口が悪いのはいつものことだけど……。
 どうしてハルに、こんなにこだわるんだろう。
 もしかして、殺されそうになったから、仕返ししようとしてるとか?

「幽霊に仕返しなんて……無理だよ」
「はぁ? 誰が仕返しするなんて言った!」

 聖亜の視線が僕に移って、にらみつけてくる。
 いつもだったら目をそらすところだけど、僕はその目に向かって言った。

「じゃあなんで、ハルにそんなにこだわるんだよ?」

 聖亜の視線が揺れて、すっと目をそらす。
 僕は思わず、聖亜の腕をつかんでいた。
 幽霊とは違う、あたたかい人間の感触。

「こっちに来て!」
「え、なにすん……」
「こっちにハルがいるから!」

 僕は聖亜の手を引いて、渡り廊下を進み、体育館に向かう。
 なんでこんなことしているんだろう。自分で自分がわからないけど……。
 なんとなくこれは、ハルのためでも、聖亜のためでもあるような気がしたんだ。
 聖亜はなにか言いたそうに口を開いたけど、なにも言わずに僕のあとをついてきた。