それから毎日放課後、僕はハルと一緒に学校内を歩いた。
 通いなれた校舎の中を見ているうちに、なにか思い出すかもしれないと思ったからだ。
 一年生の教室はもちろん、音楽室、美術室、図書室……今日は職員室にも潜入してみた。

「えっと、先生、進路希望の用紙を持ってきました」

 職員室に入るのにはなにか理由が必要だったから、僕は提出物を持って担任の席へ行った。
 ハルはきょろきょろまわりを見まわしながら、僕のそばを歩いている。
 見覚えのある先生でも見つかれば、なにか手がかりになるかもしれないんだけど。

「おう、やっと書けたか」

 僕は先生に用紙を渡すと、ちらっと隣に立つハルを見た。
 でもハルはあきらめたように、ため息をつく。

「やっぱりどの先生も見覚えないです。それにもう十か月以上、学校内は飽きるほど歩き回りましたし」

 たしかにそうか。
 それにもしハルが本当に一年生で、春に亡くなったんだとしたら、そもそも学校にはあまり通っていないのではないだろうか。
 先生やクラスのみんなになじむ前に、亡くなってしまったのかもしれない。

「なんだ柚希、これは」

 提出した用紙を手で軽く叩いて、担任が僕を見る。

「進路『未定』って……せめて進学か就職かくらい、書けよなぁ」
「すみません。まだ書けないんです」

 僕はハルから目をそらし、先生のほうを見て言った。

「あの、僕、いままで進路のこと、まったく考えてなくて……でもいまから本気で考えようと思ったんです。だから適当なことは書きたくなくて」

 顔をしかめる担任の前で、ぺこっと頭を下げる。

「だからもう少し考える時間をください。ちゃんと真面目に将来のこと考えますから」

 担任はふうっとため息をつくと、『未定』と僕が書いた用紙を返してくる。

「わかった。特別にもう少し時間をやる。その代わり真面目に考えて、提出しなさい」
「い、いいんですか?」
「適当に書いて提出されるより、よっぽどいい」
「ありがとうございます」
「あ、それから聖亜にも言っといてくれ。ちゃんと考えて早く出せってな」
「えっ、あ……はい」

 絶対嫌だったけど、仕方なく答えて、ハルと一緒に職員室を出た。