「ねぇ、聖亜を見て、なにか思い出すこととかない?」
「ないですね」
「ハルのひとつ年上で、第一小学校と西中学校に通ってて、中学のときはバスケ部でけっこう活躍してて、でも高校ではなぜか辞めちゃって……態度が悪いからバカっぽく見えるけど、実は意外と頭もよくて……」
「へぇー、さすが幼なじみ。あの人のこと、よく知ってるんですね」

 ハルはさらにふてくされた態度で言う。

「ふざけないで、ちゃんと考えてくれよ」
「考えたくないです。あんな人が知り合いだったら、ボク自殺します」
「……もう死んでるくせに」
「はぁ!?」

 こっちを向いたハルが、僕の頭をぽかっと叩く。

「それ、笑えないですから!」
「そっちが先に言ったんだろ? 自殺するとか……笑えない冗談言うなよ」
「冗談じゃないです! ボク、あんなやつと知り合いだったら、マジでこの世の終わりですから! だっていじめっ子の知り合いでしょ? 友達とかだったらマジサイアク! もし一緒にいじめとかやってたら……あー、でもわかんない! やってたのかも? どうしたらいいんですか!? ユズー!」

 今度は泣きついてきたハル。
 僕はつい、ぷっと噴き出してしまった。

「あっ、笑いましたね? いま笑ったでしょ?」
「うん、ごめん。でもなんかおかしくて」
「おかしくないでしょ! ボク、なんにも覚えてないんですよ? もし生きてたころのボクが、聖亜みたいなクソ野郎だったら、ユズは……」

 そこで言葉を切ってから、ハルは僕から目をそらした。

「ユズはそれでも……こうやって一緒にいてくれますか?」

 僕はハルの隣でうなずく。

「もちろん。僕たち友達だろ?」

 ハルはなにも言わない。

「それにハルは絶対、クソ野郎なんかじゃない。僕が保証する」

 今度はハルが噴き出した。

「証拠もないのによく言いますね?」
「これからちゃんと証拠を見つけるさ!」

 僕はフェンスの向こうの、暮れていく街を眺めながら、ハルの手を握りしめる。
 なぜかいま、そうしたかったから。

「ユズ……」

 そんな僕の隣で、ハルは僕の手を握り返した。
 そして同じように街を眺めながら、ぽつりとつぶやく。

「ありがとう……」

 その声は消えそうに儚くて、僕は強く、ハルの手を握る。
 僕はハルに触れることができる。
 それはハルにとって、僕が特別だから。
 そしてきっと、それには理由がある。
 もしかして僕も、生きていたころのハルに、関わりがあったのかもしれない。