「他には? なにか思い出したことない?」
「うーん……」
「医者になりたかったくらいなら、頭良かったのかな? テストでいつも一番取ってたとか、得意な教科とか、塾にも通ってたとか、なにか思い出さない?」

 思いつくことを口にしていく僕を、ハルは首をかしげながら見ている。

「全然、思い出せないです」
「……そっか」

 ハルから視線をそらし、またフェンスの向こうを見る。
 あの白くて高いビルは、このあたりでは一番大きい大学病院だ。
 僕も六年生のころ、学校の遊具から落ちて怪我をして運ばれたけど、そのとき担当してくれたお医者さんは、すごく優しくていい人だった。
 そういえば僕が遊具から落ちたとき、そばにいたのは……。

「ねぇ、ハル。聖亜のことなんだけど……」

 ハルの顔つきが険しくなる。

「ああ、ユズの幼なじみで、いじめっ子で、殺したいほど憎んでるのに、『たすけて』って言われると助けちゃう人ですね?」
「……ハル」
「ははっ、冗談ですよ、冗談。もうどうでもいいです。ユズとあの人の間には、ボクにはわからない絆?みたいなのがあるんでしょ、きっと」

 ハルはそう言って笑ったけど、きっと根に持っているんだろうな。

「あのさ、ハルは……聖亜のこと、知ってるんじゃないのかな?」
「えっ?」

 ハルが目を見開いて僕を見る。

「なんでですか? ボク、あんないじめっ子と知り合いなんて、嫌なんですけど」
「でも聖亜のほうは、なんだかハルのこと気になってるみたいで」
「あの人にはボクのこと、見えないんですよね?」
「そうだけど……ハルって、左利きだよね?」

 ハルが驚いた顔で、自分の手を見下ろす。

「はい、そう……みたいです」
「それに気づいたのも聖亜なんだ」
「そうですか……」

 ハルが不満そうにそっぽを向いた。