「ハル!」

 翌日、授業が終わるとすぐに屋上へ飛び出した。
 でもそこにハルの姿はない。

「まだ怒ってるのか……」

 ぽつりとつぶやき、フェンスの前に座ってみる。
 今日の空は少し曇っていて、街並みがかすんでいる。
 ハルは毎日毎日たったひとりで、ここからの景色を眺めていたんだ。
 僕が毎日毎日、「死ぬこと」や「殺すこと」ばかり考えていた間も。

「はぁ……」

 ひとりため息をついて、リュックの中から用紙を取り出す。
 進路希望調査書。まだ白紙のままだ。

「まだ出してなかったんですか?」

 ふと後ろから声が聞こえて、慌てて振り返る。
 そこにはハルが立っていて、「それ、もう締め切り過ぎてますよ」と、先生のような口調で言う。

「うん、そうなんだけど……まだ書けてなくて」
「早く書いたほうがいいですよ。ボクのことは気にしないでいいですから」

 ハルが僕の隣に座って、景色を眺める。
 そうだ。ハルは進路なんか考えなくてもいい。
 幽霊に未来なんかないんだから。
 ぐしゃっと用紙を握りしめた僕の隣で、ハルがぽつりとつぶやいた。

「ボクは……お医者さんになりたかったです……」
「えっ!」

 驚いて隣を見る。ハルは遠くのビルを見つめている。

「いっぱい勉強して、子どもたちの病気を治す、お医者さんになりたかったです」
「ハル! それって……生きてたころの記憶?」

 僕の声に、ハルがハッとする。
 自分でも気づいていなかったようだ。

「思い出したの?」
「え、いや、わからないです。ユズが持ってる進路希望の紙見てたら、なんとなく……」
「ハルは医者になりたかったんだ」
「……たぶん」

 ハルがちょっと照れくさそうにうなずいた。僕は身を乗り出して尋ねる。