「あーあ!」

 声を上げたハルが、頭の後ろに手を回し、そのまま仰向けに寝転がる。

「せっかく幽霊がいじめっ子をやっつけて、ヒーローになろうと思ったんですけどー」
「ごめん。でもハルの願いはちゃんと僕がなんとかするから」
「頼みますよー、ボクもう、こんな生活飽き飽きしてるんですから。あー、早く成仏したい!」

 ハルの声が、暗くなった空に吸い込まれていく。
 僕はそんな空を見上げながら、ぽつりとつぶやく。

「でも成仏したら……ハルに会えなくなっちゃうんだよね?」

 ハルはなにも言わない。
 僕はハルに視線を落として言う。

「もう少しこのままじゃダメかな? 僕、毎日ハルに会いにくるからさ。なんなら授業中も来ていいよ。一緒に授業受けよう」

 僕の声に、ハルがあははっと明るく笑う。
 そしてすっと起き上がると、真剣な顔つきで僕に言った。

「ユズって……残酷なこと言いいますね?」
「え……」
「たとえいま、毎日ユズに会えても、卒業したらいなくなっちゃうんでしょ? そのあとボクはどうするんです? またひとりぼっちで、この学校を彷徨い続けるんですか? それともユズが卒業したら、さっさと成仏しろって言うんですか?」
「そんなこと言ってない!」
「言ってるじゃないですか! 結局ユズは自分のことしか考えてないんだ! ボクのことなんかなんにも……」

 ハルが目元を拭うと、洟をすすりながら立ち上がった。

「ハル?」
「もう帰ってください。家でお母さんが、ご飯作って待ってるんでしょ?」
「でも……」
「ユズにはなにもできない」

 ハルの姿が校舎の中に消えていく。

『ユズにはなにもできない』

 僕はただ両手を握りしめることしかできなかった。