あたりが真っ暗になったころ、手を振り合ってハルと別れた。
 ひと気のなくなった校舎を急ぎ足で進み、昇降口を出る。
 そこで僕は小さく「あっ」と声を出してしまった。
 だってそこに、聖亜がいたから。

「聖亜……なにやって……」

 聖亜は昇降口の壁に寄りかかり、むすっとした顔で腕を組んでいた。

「柚希。お前……」

 聖亜の口が歪に開く。

「誰としゃべってたんだ?」
「え?」
「屋上で、誰としゃべってたんだよ?」

 まさか聞かれてた? ハルとの会話を聖亜に?
 もしかしたら、見られていたのかもしれない。

「べ、べつに誰とも……」
「『ハル』って誰だよ」

 ぐっと腕をつかまれる。
 その力が強くて、僕は顔をしかめた。

「聖亜……痛い……」
「答えろ。ハルって誰だ?」

 蛍光灯の下で、聖亜の顔を見る。
 聖亜はどこか苦しそうな顔で、僕を見ている。
 僕は深く息を吐くと、聖亜の目を見て口を開いた。

「ハルは……僕の友達だよ」
「は? 友達?」

 手を離した聖亜が、今度は胸元をつかんできた。

「誰もいなかったじゃねーか! 屋上には、お前しか!」
「だから、ハルは……」

 いつもだったら目をそらすけど、今日は目をそらさず聖亜に叫んだ。

「幽霊の友達なんだよ!」

 一瞬力が抜けた聖亜の手を振り払う。
 そして校門に向かって走り出す。

「ちょっ……おい、ユズ! 待てよ!」

 聖亜が怒鳴っているけど、無視して走る。
 暗闇の中を、僕なりの全速力で。

 こんなふうに聖亜に向かって、はっきり言えたのは久しぶりだ。
 どうしてだろう。ずっと怖かったはずなのに。

『きっとできると思います』

 そうか。僕にはハルがついてるから。
 いざとなったら、聖亜を殺してくれるから。
 だからいまの僕は無敵なんだ!

「ざまあみろ、聖亜! 僕はお前なんか、いつでも殺せるんだ!」

 なんだかおかしくなってきて、笑いながら走った。
 やがて明るい電気の灯った、僕の家が見えてくる。
 だけど向かいの家は、今日も真っ暗なまま。
 僕は思わず、足を止めた。
 僕の頭に再び、ひとりぼっちの倉庫が浮かんでくる。
 聖亜はこの家で、いつもひとり――。
 考えかけてやめた。

 あんなやつ、幼なじみでも友達でもない。
 聖亜なんか――消えちゃえばいいんだ。