「事故……とかは?」
「うーん、交通事故とかならありえそうですけど。でも気づいたらここにいたんですよ? 車に轢かれたなら、その現場にいるんじゃないですか? 地縛霊とかそうでしょ?」
「でも、この場所がすごく大事な場所で、もう一度ここに戻りたくて、事故現場から戻ってきたとか?」
「このなんにもない屋上が、ですか?」
「ていうか、学校が……好きだったとか?」

 僕だったら「学校が好きで、幽霊になってもそこにいたい」なんて、死んでも思わないけど。

「だとしたら、亡くなった場所はここじゃないかもしれないよ?」
「そうですかねぇ……」

 ハルはなんだかピンとこないようだ。
 それにこのあたりで起きた事件や事故は全部調べたけど、それらしきものはなかった。
 僕たちは仰向けに寝転んだまま、黙って空を見た。

 青い色がだんだん薄くなり、ピンク色に染まっていく。
 やがてその色が紺色に変わり、夜の闇に包まれるのだろう。
 そんな闇の中、ハルはずっとひとりでいたんだ。
 そしてこれからも――。
 僕は小学生のころ、閉じ込められた倉庫を思い出す。
 暗くなっていく世界で、ひとりぼっち。
 不安で心細くて、寂しくて。
 あのときの気持ちを、ハルは毎日感じているのかもしれない。

 校舎にチャイムの音が響いた。それがなんだか悲しげに聞こえる。

「帰らなくていいんですか?」

 隣でハルがつぶやく。

「もう少し……ここにいるよ」

 ハルがうれしそうに笑ったのがわかった。
 僕はハルと並んで寝転んだまま、変わっていく空の色を見つめた。
 なにげなく手を動かしたら、隣にいるハルの手にぶつかった。
 ハルの手はすごく冷たくて……。
 なんだか涙が出そうになった。