「なんか少しでも覚えていることとかない? 手がかりがほしいんだ」

 僕は励ますように、ハルの隣に座って声をかけた。

「ハルは、気がついたらここにいたんだよね?」
「はい。この屋上にいました」
「じゃあ死んだ場所ってここなのかな? ていうか、死因はなんなんだろう」

 僕ははじめてハルに会った日を思い出す。

「やっぱ……自殺?」
「は? ちょっと待ってください! なんでボクが自殺なんかしなくちゃいけないんですか!?」

 ハルがさらさらの髪をなびかせて、僕に顔を近づける。
 僕はちょっとドキッとして、ハルから体を離した。

「いや、でも、覚えてないんでしょ、自分がどんな人間だったのかも」
「そうですけどぉ……」

 ふてくされたように、ハルが遠くを見る。
 この学校の屋上から見えるのは、ごちゃごちゃした住宅の屋根と、マンションや大学病院などの高いビル。
 そんな景色を眺めながら、ハルがつぶやく。

「ボク……殺されたのかもしれません」
「えっ?」
「ほら、ボクってイケメンですし、三角関係とかに巻き込まれて、この学校の屋上で……」

 ハルが自分の腹になにかを刺したようなしぐさをして、ばたっと仰向けに倒れる。

「まさかそんな記憶があるの!?」
「いや、全然ないですけど」
「ないのかよー!」

 あきれた僕は、ハルの隣に寝転がる。
 僕の目に、広くて青い空だけが広がる。

「殺人事件とか……現実的じゃないよ」
「じゃあボクは、なんで死んだんですかね?」

 ハルの声が僕たちの間で、行き場もなく浮かぶ。
 僕は必死に頭をひねって、つぶやいた。