「ひっ……」

 仲間のひとりが声を上げ、聖亜の視線が僕の後ろのフェンスに移る。

 ガシャン! ガシャン!

「な、なんだ、あの音!」
「誰かがフェンス蹴って……」
「だ、誰かって……誰もいねーじゃん」

 ガシャン!!

「ギャー!」
「出たー!」

 仲間たちが叫びながら校舎の中へ駆け込んでいく。
 聖亜はフェンスを見つめたまま、ゆっくりと僕から手を離した。

 ガシャン! ガシャン!

「……なんだあれ」

 聖亜がつぶやく。
 後ろを振り向くと、ハルが力任せにフェンスを蹴りつけている。
 そのせいでフェンスは不自然にへこんでしまった。

「誰か……いる?」
「え?」

 聖亜の声に顔を向ける。

「まさか、聖亜にも見えるの?」
「は? 見えるってなにが?」
「幽霊だよ」

 僕の声に一瞬目を丸くしたあと、聖亜はいつものように顔をしかめ、僕のことを突き飛ばした。

「ふざけんな! 幽霊なんかいるわけねーだろ! へんな小細工しやがって! お前がどっかから音出してんだろが!」
「そ、そんなことしてな……」
「お前いい加減に死……」

 言いかけた聖亜の顔色が変わる。聖亜の隣にハルが立っている。
 僕のペンケースからいつの間にか取り出した、シャーペンの先端を聖亜の腕に突きつけて。

「な、な、なんだよっ!」

 腕を押さえ、慌てて後ずさった聖亜の横で、シャーペンがぽとんっと足元に落ちる。
 もちろんハルが落としたのだが、幽霊が見えない聖亜からすると、浮かんでいたシャーペンが勝手に落ちたように思えただろう。

「こ、これもお前のしわざだろ……」

 わなわなと震えながら、聖亜が振り返って怒鳴る。

「覚えてろよ! クソユズ!」

 そう吐き捨てると、聖亜は僕を残して校舎の中に入っていった。