放課後になると、僕は聖亜たちの目を盗んで屋上に行く。
 すると今日もハルが、冬晴れの空の下、寂しそうな表情でフェンスの向こうを眺めていた。

「ハル」

 僕が呼ぶとハルが振り返り、うれしそうな笑顔を見せる。
 その表情を見て、僕もホッと安心するんだ。
 ハルにはいつも笑っていてほしい。
 寂しそうな顔はしてほしくない。

「今日は一日ユズに会ってなかったので、寂しかったです」

 今日は授業の一環でボランティア活動に参加しなければならなくて、校外に出かけていたのだ。
 ハルは学校の敷地から外へ出られないから、会ったのは一日ぶりだった。

「ごめんね、ひとりにさせちゃって」
「いえ、大丈夫です。ユズが借りてきた本、読んでましたから」

 ハルが『地縛霊の秘密』を僕に見せる。
 僕は苦笑いしてごまかす。
 でもまぁ、暇つぶしにはなったみたいでよかった。

「あれ? ユズ、ここどうしたんですか?」

 ハルが僕の腕についた傷を見つけ、首をかしげる。

「ああ、うん、ちょっと……」
「また、あいつらにやられたんですか?」

 僕はうつむく。
 今日のボランティア活動中、ちょっとわからないことがあって、誰かに相談したかった。
 最悪なことに僕は聖亜と同じグループで、でも聖亜には絶対聞きたくない。
 だから他のグループの優しそうな女子に相談したんだけど……。
 どうやら聖亜はそれが気に入らなかったらしい。

『女子とへらへら笑ってんじゃねーよ』

 聖亜はそう言うと、僕の腕にシャーペンの先を突きつけてきたんだ。
 最近他のクラスメイトは、僕にちょっかいを出さなくなった。
 幽霊のハルが怖かったから。
 でも聖亜だけは違ったのだ。
 屋上での幽霊騒ぎのときも、体育館の騒動のときも、聖亜はその場にいなかった。
 聖亜はハルからの仕返しを受けてないし、「幽霊なんかいるはずねーだろ!」と誰の言葉も信じていない。
 だから聖亜は僕のことを、あいかわらずいじめていたんだ。
 ハルはじっと僕の腕を見つめて、ぽつりとつぶやく。