「今日はスマホ持ってるけど……助けてくれるような友達はいないし、先生に連絡したら怒られそう……」

 ハルは僕の肩をぽんっと叩く。

「大丈夫です。ボクに任せてください」

 そしてドアに向かってゆっくりと歩き出す。

「ハル……ドアには鍵が……」

 言いかけた僕の目の前で、ハルがドアの向こうにすうっと吸い込まれていく。

「ひいっ……」

 僕は驚いたあまり、腰を抜かしてしまった。
 でもよく考えたら、ハルは幽霊なのだ。
 ドアだろうが壁だろうが、きっとすり抜けることができるんだろう。
 だっていつも僕が屋上へ出るとき、鍵がしまったままなのにハルは外にいる。
 きっとドアなんて使わなくても、外に出られるんだ。

 すぐにカチャッという音がして、ドアが開いた。
 ハルが鍵を開けてくれたのだ。

「ごめんなさい。驚かせてしまって」
「う、ううん」

 首を振る僕の前で、ハルが悲しそうに微笑む。

「やっぱり化け物ですよね……こんなやつ」
「違う! そんなこと思ってない!」

 僕はハルに駆け寄り、その肩に両手を乗せる。
 冷たいけれど、ちゃんと感触はある。

「ありがとう、ハル! 僕を助けてくれて! 今日だけじゃない。何度も何度も助けてくれて、ありがとう!」
「ユズ……」

 ハルが顔を上げて僕を見つめる。

「ハルは化け物なんかじゃないよ。ハルが僕を助けてくれたように、僕もハルを助けたい」

 僕は必死にハルに告げる。

「弱くて頼りない僕だけど……ハルは僕にとって、大事な友達だから……」

 ハルが僕の前で、にこっと笑った。

「ありがとう。うれしいです。ユズ」

 ハルは化け物なんかじゃない。かわいくて綺麗で……まるで天使のようだと僕には思えた。