「その校章」
「え?」

 僕はハルのブレザーの襟についた、小さな校章を指差す。

「ハルの校章はエンジ色でしょ? うちの学校、学年ごとに校章の色が違うから、ハルは僕の一個下の一年生だよ」

 僕が自分の緑色の校章を指差して言う。
 しかしハルは首をかしげている。

「あ、そうだったんですね?」
「それも覚えてないのか……ていうか、学校中うろついてたなら、そのくらい気づけよ」
「こんなの、よく見ないと気づきませんって」

 ハルが明るくあははっと笑う。
 まったく、しっかり者なのか、うっかり者なのか、よくわからない幽霊だな。

「ハルは去年の春ごろから、ここにいるんだよね?」
「そうです。桜が咲いてたの覚えてます」
「てことは、そのころに亡くなったってことかな。この学校で」

 でも去年の春ごろ、生徒が亡くなった話なんて聞いたことがない。

「ボクもそう思って、全クラスを回ってみたんですよね。もしかして机に花が置かれてるとか、誰かが悲しんでくれてるとか、ボクの噂が流れてるとか思って。でもまったくそんな気配はなかったんです」
「じゃあもっと前に亡くなったのかな?」
「だったらもっと前からここにいるような気がするんですよね。でもボクは、春からの記憶しかないから」

 春に亡くなったのは確定なのか?
 しかもこの学校から出られないってことは、亡くなった場所もここなのだろうか?
 じゃあどうして亡くなった生徒がいないんだろう。
 なにか事情があって、先生たちが隠しているとか?