落書きだらけで、ボロボロになった教科書をリュックに突っ込む。
 椅子から立ち上がり、それを胸に抱え、うつむいたまま廊下へ向かう。
 誰も僕に気づきませんように……。
 心の中で強く祈り、重たい足をぎこちなく動かす。
 あと少し。あと少しでこの教室から――。

「おーい、どこ行くんだよ、柚希(ゆずき)くん!」

 クラスメイトの声に、心臓が撃ち抜かれたような衝撃を受け、ピタリと足が止まる。

「今日は俺たちにつき合ってくれるんでしょー?」

 からかうような、別生徒の声。
 僕は背中を丸め、胸のリュックをぎゅっと抱きしめた。

「あれぇ? もう忘れちゃったの? 柚希くーん」

 教室のあちこちから、下品な笑い声が響く。

「柚希ー、こっちこいよ」
「一緒に、あーそびまーしょ!」
「なぁ、柚希くーん」

 上履きを見下ろしたまま、唇を噛む。
 いますぐここから逃げ出したいのに、足が床に張りついたように動けない。
 そんな僕の背中に、ペタペタとひとりの足音が近づいてくる。

「おいっ! 無視してんじゃねーよ!」
「ひっ……」

 耳元に大声が聞こえたと思ったら、首に腕を巻きつけられ、抱え込まれた。