「ユズって、すごく素直でいい人ですね」
「えっ」
「実はモテるでしょ? 女の子から」
「ま、まさか!」
「彼女とかいないんですか?」
「いるはずないだろ! 彼女どころか、女子を好きになったことさえ、一度もないよ!」
「え、そうなんですか?」

 ハルがきょとんとした顔で僕を見ている。からかっているのか、本気なのか、よくわからないやつだ。

「……ハルはどうなんだよ?」
「え?」
「彼女とかいたんじゃないの? モテそうな顔してるし。女子にキャーキャー騒がれてたんだろ?」

 ハルがうつむいた。そしてぽつりとつぶやく。

「ボク……あんまり覚えてないんですよね、生きてたころのことも」
「え、生きてたときのことも覚えてないの?」
「はい。気づいたらここにいて……まぁ、周りの反応で自分が幽霊になっちゃったってことはわかったんですけど、自分が誰なのかもわかんなくて」
「名前は? ハルってあだ名だろ? 本名は?」

 僕の質問に、ハルが静かに首を横に振る。

「わからないんです、それだけしか。きっと『ハルキ』とか『ハルヤ』とかそういう名前だったのかもしれません。もしくは『ハルヤマ』とか『ハルタ』とか苗字系?」
「じゃ、じゃあ年齢は?」
「それもわかりません」
「でもその制服を着てるってことは、この学校の生徒だったってことだよね?」
「はい。だけどクラスも学年も思い出せないんです。学校内のこともさっぱり覚えてなくて。あ、毎日うろついていたから、いまは学校中のこと、完璧にわかってますけどね」

 偉そうに胸を張るハルを見て、僕はあることに気づく。