それから僕は、ハルと一緒に過ごすことが多くなった。
 休み時間になると、ハルが僕のクラスにやってくる。
 僕には友達がいなくて、休み時間はいつもひとりだったから、そばにいてくれるのはありがたかったけど、ハルは他の人には見えない。
 だからハルと会話をすると、僕がひとりでしゃべっているように見えてしまう。

 最初のころうっかり、教室でハルの言葉に答えてしまった僕は、女子生徒に『ひとりでしゃべっているおかしな人』と思われてしまった。
 いくらぼっちの僕でも、『おかしな人』と認定されるのはちょっと嫌だ。
 だからハルと話すときは、ノートに返事を書くようにしている。
 幽霊と『友達』って、けっこう不便だ。

「ねぇ、知ってる? 屋上に幽霊が出たんだって」
「体育館にも出たらしいじゃん?」
「それがさぁ、幽霊が出るときって、いつも柚希くんがいるらしくて」
「やばっ、それって、柚希に取り憑いてる幽霊なんじゃない?」

 僕にわざと聞こえるような声で、女子生徒がキャーキャー騒いでいる。
 机に視線を落とし、はあっとため息をつくと、そばでハルが笑った。

「なんか噂になってますね」

 僕は黙ってこくんとうなずく。
 でも最近、クラスの連中は、あまり僕にちょっかいを出さないようになった。
 たぶんビビっているんだろう。
 僕を――じゃなく、幽霊のハルのことを。

「いじめっ子もあんまり手を出してこないようになったみたいですし。よかった、よかった」

 満足そうに笑ってから、ハルが僕の顔をのぞき込む。

「ところでボクのことも、ちゃんと調べてくださいよね?」
「あ……」
「忘れてたでしょ?」

 いや、忘れてたわけじゃないけど。
 幽霊のことなんか、どうやって調べればいいんだろう。
 なんで死んだのかわからない、学校に彷徨う幽霊。
 地縛霊ってやつなんだろうか。
 もしかして誰かを恨んでいて、ここから離れられないとか?
 想像したら、ぶるっと震えた。

 おそるおそる顔を上げると、ハルがにこっと僕に笑いかけた。
 綺麗でかわいい、天使のような幽霊・ハル。
 ハルが悪い霊とは思っていないけど、そういう可能性だってないことはない。
 やっぱり僕は幽霊のことを、なんにも知らないんだ。

 教室にチャイムが響く。

「じゃあ、またあとで、ユズ!」

 ハルはそう言うと、軽く手を振って教室を出ていく。
 僕の勉強の邪魔をしないためなのか、授業中は姿を消してしまうんだ。
 僕はちょっとだけ寂しさを感じながら、ハルの背中を目で追った。