ボンッ。

「いてっ……」

 頭を押さえて、後ろを振り返る。
 ジャージ姿の同じクラスのやつらが、僕を見てげらげら笑っている。
 足元に転がるのは、体育の授業で使っているバスケットボール。

「柚希くーん! 昨日はよくもからかってくれたな?」

 ひとりの男子がまた、僕に向かってボールを投げる。
 とっさによけようとしたのに、なぜか顔面に当たってしまった。

「ストライーク!」
「やべっ、俺、コントロールよくね?」
「バーカ、あいつの運動神経が悪すぎなんだよ」

 ぎゃはははっと笑う、クラスメイトたち。
 たしかにやつらの言うとおり、僕の運動神経は悪すぎる。

「だいたいリュックが飛んでくるなんて、ありえねーもんな」
「そうそう、柚希が俺たちに投げつけたんだろ?」

 もう一度ボールが飛んできて、僕の肩に当たる。
 僕は黙って、唇を噛みしめた。

「これ、俺からのお返しな!」
「じゃあこれは、俺から!」
「あ、待って、俺も!」

 次々とボールを手に取る生徒たち。
 逃げようとしたら、別の生徒が後ろから僕を羽交い絞めにした。

「おら、行くぞー、柚希くーん!」
「ちゃんと顔で受け止めろよなー」

 僕はぎゅっと目を閉じる。

 ボカッ。

 ボールの当たる音。だけど僕には当たってない。
 おそるおそる目を開けたら、顔を押さえて倒れる生徒の姿が見えた。

「誰だ! 俺にボール当てたやつ!」
「え、俺じゃねぇよ」
「俺も投げてない」

 すると別の生徒たちの顔にも、ボールが飛んでくる。

「いてっ!」
「なんだこれ!」

 よけようとする生徒の顔面に、次々ボールが当たる。

「だ、誰だ?」

 僕を羽交い絞めにしていたやつが手を離し、後ろを振り返った。

「ひえっ……」

 情けない声を出した生徒が、腰が抜けたように座り込む。

「これでもくらえっ!」

 そんな生徒の顔に向かってボールを投げつけたのは、幽霊のハルだった。

「ハ、ハル……?」

 ハルはにこっと僕に笑いかけると、逃げ惑う生徒たちに向かって、ボールをどんどん投げていく。

「ギャー、オバケー!」
「逃げろー!」
「待ってくださいよー! もっと一緒に遊びましょー!」

 体育館から逃げ出す生徒をハルが楽しそうに追いかける。

「こらー、なにやってる! ボール片付けとけって言っただろ!」

 逃げ出した生徒たちが先生に見つかり、怒られた。
 僕は力が抜けて、へなへなとその場に座り込む。

「大丈夫ですか? ユズ」

 気づくとハルがそばにいて、僕に声をかけてきた。
 まわりに人がいないのを確認すると、僕は小声で答える。

「びっくりしたよ。こんなところに来るとは思わなかったから」
「ボク、学校内ならどこでも行けるんで。暇だから散歩してたら、ユズがいじめられてたのが見えて。あいつらマジでビビって、おかしかったですねー」

 ハルが僕の隣でけらけら笑っている。

「またなにかされたら、ボクがやっつけてあげますからね?」
「う、うん……ありがと」

 ちょっと戸惑う僕の前で、ハルは満足そうに微笑んだ。