「柚希ー? 聖亜くん、いた?」

 キッチンから声がする。僕は平静を装って、姿を見せないまま答える。

「うん、いたよ。すごく喜んでた」
「よかったー! あんたも早くご飯食べちゃいなさい」
「わかった。ちょっと待ってて」

 階段を駆け上がり、自分の部屋のドアを閉めた。
 深くため息をつき、机の上に汚れてしまった唐揚げの入った容器を置く。
 そしてポケットの中に入っているものを取り出した。
 カッターナイフ。
 いつでも聖亜をやれるように、常にポケットに忍ばせている。
 それなのに――僕はこれを使うことができない。

「くそっ……なんでこんな想いしなきゃなんないんだよ!」

 床に向かって、カッターを叩きつける。
 それと同時に、さっき会った、ハルというやつの声が頭に響く。

『ボクが仕返ししてやってもいいですけど?』

 静かな部屋の中で、ぽつりとつぶやく。

「幽霊って……人を殺すこと、できるのかな」

 階段の下から、母さんの僕を呼ぶ声が聞こえた。