「唐揚げたくさん作りすぎちゃったから、聖亜くんちに持ってってあげて」

 にこにこした顔で、僕にデカい容器を差し出す母さん。
 母さんは僕と聖亜の関係が、とっくに壊れているって知らない。
 まだ小さかったころのように、仲がいいと思っている。

「母さんが持ってけばいいじゃん」
「お母さんは夕飯の支度で忙しいの! 聖亜くんだってこんなおばちゃんが行くより、仲良しのあんたが行くほうがいいに決まってるでしょ」

 仲良しなんかじゃないのに……。
 母さんが僕の胸に無理やり容器を押しつける。

「冷めないうちに持っていってあげて。今夜もお父さん帰ってこないだろうから」

 背中を向けた母さんが、ガスコンロの火をつけながらそう言う。
 たしかに聖亜のお父さんは帰ってこないだろう。
 長期出張中……というのは建前で、女の人の家に入り浸っているらしいと、母さんが近所の人と噂しているのを聞いた。

 だからってなんで僕が……。

 かといって、口答えしたら百倍になって返ってくる母さんに反抗することもできず、僕は仕方なく容器を抱えて外へ出た。